壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
「……だからこれも正解というわけだ」
「えっ?」
「まったく女としてあんたに興味はなかったが、さすがにこうも良い匂いを出されるの気になるものだ」
わざとらしく葉名の髪を一房手に取り、匂いを嗅ぐ。
にやりと笑い、葉名の髪を指で梳く手つきにムッとした。
「ま、正式には一年後だ。仲良くしていこうや、花嫁さん」
「あなた、性格悪いって言われませんか?」
「よく言われるなぁ。蒼依がいい子ヅラしすぎなんだよ」
「……そうですね」
蒼依は品行方正で真面目な人だ。
里の期待も高く、葉名には遠い人だった。
あまりに背負いすぎたその姿に寄り添いたいと思うことさえ、おこがましかったのだ。
――これでよかった。
蒼依の枷になりたくなかったのだから。
(この匂いに身を委ねればいい。依久くんの匂いは……ただ甘いだけだから)
高嶺の花より身近な花。
枝はそう告げている。
葉名には蒼依を幸せに出来ない。
それが運命であり、点から告げられた意志なのだから。
――だからここで泣くのは、卑怯だ。
「お前……」
(あぁ、どうしよう。委ねてしまえば楽なのに……)
本能と理性の矛盾に心が追い付かない。
涙が零れ落ちた。
「……」
泣きじゃくる葉名を黙って見下ろす依久。
一瞬だけ、ちらりと背後に目をやる。
「え?」
急に葉名の背に手を回され、引き寄せられる。
気づいた時には葉名と依久の唇は重なっていた。