壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
「……たしかに、俺にはお前の匂いがわからん。穂高から感じた匂いは唯一だと思う」
吐息の混じる熱い声が耳元でささやく。
わからぬ匂いに心が燃え上がる。
「だが心が焦がれるのは葉名、お前にだけだ。匂いがわからなくても欲しいのはお前なんだ」
「どうして……。私はっ! 蒼依くんに幸せになってほしい! あなたの幸せは正しい方と結ばれ、世継ぎを得ていくことこそ――」
「勝手に決めないでくれっ!!」
再び唇が重なり、葉名の言葉を飲み込んでいく。
熱くて苦しいのに、その炎からは逃れられない。
「俺を幸せにしたいならば答えてくれ。どうしてお前はいつも答えてくれない? 焦がれるのは俺だけか? 俺の幸せに何故、葉名がいない前提なんだ?」
焦げ付く匂いが鼻をくすぐる。
「葉名の幸せに俺は不要なのか?」
首を横に振る。
――とまらない。
あふれ出す。
欲が、私を支配した。
「焦がれております! 誰よりも、誰よりも焦がれております!! ですが連理の枝は違うと示して――」
何度も重なるそれに息を切らす。
擦り切れそうになりながらも、欲しくてたまらない。
「はっ……んぁ、はあ」
「……求めてくれ。どうか俺を求めてくれよ。 ──頼む」
濡れた唇が糸を引いて離れると、蒼依はその場に膝をつき、頭を垂れた。
葉名の腰に手をまわし、懇願するように抱きついてくる。
「好きなんだ。 お前に出会った時からずっと、笑ってほしくて。笑ってくれた時に、俺は喜びを知った。……幸せを感じたんだ。お前の幸せに、俺を必要としてくれ。……愛してるんだ、葉名」
これほど震え、満たされるものはあるのだろうか。
重なる想いは狂おしく、盲目となる。
心の穏やかさより、情熱に手を伸ばす。
(……欲しい。こんなにも歓喜に震える。求めずにはいられない)
殻に閉じこもってばかりだった葉名ははじめてそれを破る。
俯いていられるほどの余裕はない。
葉名が求めていたのは、葉名に手を伸ばす勇気をくれる人であった。