壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜


***

里の外へ道で番の木の下を通る。

見上げると白銀の枝が光っていた。

葉名の枝を見ると、依久の枝の根に絡みついている。

まだ絡んでいない部分が空に向いて伸びていた。



「里を抜けたらもう忍びではなくなる」



繋がった手に力がこもる。



「今度こそ夫婦となろう」

「はい」



やさしい気持ちになる。

素直になったことで葉名はこれまでで最も幸せを感じていた。



(あたたかい手。私はずっと蒼依くんに幸せになってほしかった。だけど同時に私も幸せになりたかった。幸せになるのが怖かったんだ)



こうも晴れやかな心持ちに、光を見た。

悲観的だった葉名が前を向き、幸せを見つめる勇気を持っていた。



(あなたとの未来はきっと素敵ね。連理の枝が結んだ運命なんて)


――関係なかったんだ。





風を切る音が耳をかすめた。

振り返ろうとすると、それを妨げるように蒼依が葉名を抱きしめ、音に背を向ける。

音がやんだと思ったら、次に鼻をかすめたのは鉄の匂いだった。





「……蒼依くん?」



葉名に覆いかぶさるように身体をぐったりとさせ、もたれかかる蒼依。

葉名は膝をつき、蒼依の背に手をまわす。

ねっとりとした液体が葉名の手を染める。



(鼻をつんざく匂い。これは……血?)



目まいがする。

何も考えられない。



「あ……ぁああああ……」

「――え、なんで?」



雪を踏む音が葉名と蒼依の後ろで止まる。

忍びの装束をまとい、口元を覆っていた黒い布を指でおろした穂高が立っていた。

動揺した声も葉名は聞く余裕がない。



「なんで蒼依様が血を流して倒れてるの? 私が狙ったのは……」



ガクッと膝をつき、穂高は震える手を見つめる。


かすむ視界、息絶えそうな蒼依が力を振り絞り葉名の手を握った。


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