壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
「逃げろ、葉名」
「蒼依くん!?」
「後から追う。だから先に、里を出ろ……」
「嫌です! すぐ止血します! だからどうか共に! ……っ共に」
血が止まらない。
涙もとまらない。
喉が痛くて、胸も痛くて、蒼依の身体を抱きしめるしか出来ない。
蒼依は目を閉じ、短い呼吸を繰り返しながら笑っていた。
「はっ──知らなかったな。これだけ血が出ても痛みを感じない。なのに、身体は動かせないものなのだな」
「やだ……やだよ、蒼依くん……」
「ごめん、葉名。全然、君の顔が見えないんだ。痛みもないのに、変だな」
「嫌です! 夫婦に、夫婦になると言ったではありませんか!!」
フッと口角をやわらかくし、蒼依は微笑む。
白い息が大気に溶け込んでいた。
「うん、そうだったな。……枝は結びつかなかったけど、俺が愛したのは……葉名だ」
「……っ私も、蒼依くんを愛してます」
――これほどの愛の言葉はない。
あなたに呼ばれる名前が、一番の愛だった。
「……蒼依くん?」