Melts in your mouth
こいつ、見ない間に痩せたな。痩せたというよりげっそりしてると表現した方がぴったりと当て嵌まるかもしれない。入社して来た時からずっと細身で、貴様はモデルか?と問いたくなるまでにその体型を崩す事がなかったけど、目前にいる平野は今までで一番痩せていた。
私がつんと突いただけでいとも容易に折れてしまいそうなまでの美脚がスウェットを履いていても確認できる。「永琉せんぱーい、俺の脚ってBLACKPINKのLISAみたいじゃないですかぁ?」何年か前にこいつが自分の脚を組みながら腹立たしい台詞を吐いた瞬間を不意に思い出した。こいつを殺してやる。あの瞬間私の心に沸いたのは殺意だけだった。
「…っ…永琉先輩そんなに顔近づけて何するつもり……「やっぱり熱高い。」」
ぐいっと距離を縮めて相手の額に触れれば、酷く熱い温度が指に伝った。38℃以上はあるであろう体温に、ぐしゃりと己の表情が崩れていく。
あの時、私が傘さえ持っていればこいつが雨に濡れる事はなかった。熱で苦しむ事もなかった。そんな後悔が募らないといえば嘘になる。まさか平野に対してこんなにも申し訳ない気持ちを抱く日が来るなんて…一生の不覚だ。
「はぁーーー。」
「何で溜め息!?!?ていうかその目何ですか!?!?冷たっ!!!凍えて余計熱上がりそう!!!」
「うるさい、さっさと寝てろ。」
「え、ちょっ…永琉先輩…。」
強制的に腕を引いて平野をベッドに沈め、すかさずベッドの隅でぐじゃぐじゃに纏まっている羽毛布団を掛けた。レジ袋を漁って冷えピタを開封し、相手の前髪を手で掬いあげてから毛穴のない綺麗なおでこにそれを貼り付けた。冷えピタを貼り付けても平野はイケメンだった。
どうか来世では犬のうんこ位に降格してますように。最低な願いを心で唱えたのはここだけの秘密だ。
放置期間が長かったせいで伸び放題になっている自分の髪を高い位置で結い上げて、お粥に必要な材料を取り出す私をチラッチラッチラッチラッ見てくる平野の視線が鬱陶しくて首を横に折って「何?」と問う。
「……キスされると思っちゃった。」
返されたアンサーに、やはりこいつは高熱で脳味噌が溶かされているのだなと思った。「永琉先輩が顔近づけてきたから…sucréでありがちなそのままキスして熱が移っちゃう的な展開かもって胸がドキドキしちゃった」布団に顔を埋めて唯一覗かせている双眸に私を映した平野は、更に続けて開口した。
「だからちょっと…ううん、凄く残念だなって落ち込んでるなうなので、慰めてくれますか?」
「普通に無理。」