Melts in your mouth
病み上がりにも関わらず大量のタスクで疲労困憊なのか、朝はしっかりセットされていた髪が乱れている。
嗚呼、こいつはこいつなりに努力して、この男はこの男なりに神経を摩耗しているんだな。今ならそう思うことができるし、相手の苦労もちゃんとこの目に見える。
「平野。」
相手の視線が持ち上がって、美しい双眸に自分の顔がぼんやりと映る。平野の瞳の中にいる自分は、呆れてしまうまでに頬に力が入っていない。
その上、ここ連日の疲労で私は頭でも沸いていたのだろう。無意識のうちに柔らかそうなピョンと跳ねているアッシュの髪の毛へ手を伸ばして、撫で付ける様に触れてしまっていた。
「…え。」
「え。」
みるみるうちに大きく見開かれる相手の目と拍子抜けしたかの如くポツンと漏らされた声によって我に返った。そして間抜けな声が自らの口から零れていた。
嗚呼、どうしよう。親からも感情に乏しい女だと謳われたこの菅田 永琉が柄にもなくパニクっている。動揺がまるで隠せない。今、一体、己はどんな表情をしているのだろうか。
どこでもドアが欲しいよドラえもん、そしたら真っ先にここから一番遠い場所に逃亡するよ。
「べ、弁当……その、美味しかった。病み上がりなのに作ってくれて…ありがとう。」
アラサーも視野に入り始めた年齢だってのに、咄嗟に吐き出した言葉は頑張って絞り出したのが見事に露呈する位に弱弱しい。
そこそこ人生重ねてきたつもりでいたけれど、動揺はこれっぽっちも隠せていなかった。