Melts in your mouth
更に追い打ちをかけた不幸は、平野がsucréに配属されてからの数年間、一人として新入社員がsucré編集部には入って来なかった事である。
新人さえ入ってくれれば望んでいない平野との近距離な日々も終焉を迎えてくれるだろうと期待を寄せていたというのに、私の後輩は永遠に平野のみだった。
厄年かそれ類の何かかと思って神社にお参りに行ったのに効果なし。ここまでくるといよいよ平野が疫病神だとしか思えない。
平野に苛立った回数を一々数えてはいないが、恐らく優に一億回は超えていであろう。それくらい私とあいつは何をするにも馬が合わなかった。といっても、馬が合わないと感じているのはどうやら私だけらしく、いつだってこちらを秒速で不快にさせる平野プロは何の嫌がらせなのか、やたらと私に引っ付いて回った。
私にしか見えない気色の悪い妖怪説も浮上したが、平野が通るところに頬を染める乙女ありな現実を幾度となく目撃したのでその説はあっさりと否定された。
毎日毎日毎日毎日、「永琉せーんぱい!お昼一緒に食べましょうよ~」とか意味分からん誘いをしてくるし、どんだけ拒否しても全くめげない。何処でそのメンタル鍛えてきたんだよ。お前のメンタルの原料は鋼か?何度そう思ったことか。
平野と居れば居る程に生理的に嫌いってこういう事を言うのだなという確信が大きくなっていく私の傍で、いかにも世の中を舐め腐って生きいますって感じの平野は男性一人の空間でも先輩や上司の懐に入って、いつでも素直に甘ったれる事ができる環境を手際よく築いていった。
そうこうしている内に一年、また一年と過ぎ、私が担当した漫画家さんの作品が実写映画化になり、その半年後には平野の担当している作品のドラマ化が決まったりと、創設以来の繁忙期がsucréに到来して、会社内でも一定の地位を確立するという奇跡が起きた。
とりあえず全てにおいて右も左も分からないsucré編集部は、突如到来したバブルに毎日がてんやわんやで、それを見ていた会社の人事はこんな連中に新人を教育できる余裕はないと判断したのかもしれない。