Melts in your mouth
一体どれだけの覚悟を決めてこの台詞を吐いているのだろうかと思う。苦しいに違いないはずなのに、次から次へと温かい言葉を紡ぐ相手の底のない優しさが心に沁みて仕方がない。
「それじゃあまた会社でな菅田。今日は一緒に呑めて楽しかった。」
ふわり。相手の唇を緩める所作は、そんな効果音が似合う気がする。頭に置かれていた手が離れ、視界に入っている改札の方へと歩き出す背中を、気づけば私は呼び止めていた。
振り返って首を傾げる男に対して「山田、ありがとう」という言葉が自然と口から落ちていた。
「おう。気を付けて帰れよ。」
「うん。」
口角を持ち上げて見せた後に踵を返して、次こそ改札を潜ってどんどんと小さくなっていく山田の背中を見送った私の頬には涙が落ちていた。
「本当に…優し過ぎるんだよバーカ。」
悶々としてぐちゃぐちゃに乱れていた心が嘘の様に、背中を押して貰えた私の感情からは迷いが消えていた。
私はどうしようもなく、平野が好きだ。