Melts in your mouth
第五章
好きな男
女性コミック誌の担当になって、数多くの恋愛に触れて来た。物語の中のフィクションな恋愛でしかないのかもしれないけれど、作者とも読者とも違う立場で触れるその恋愛には、現実世界に転がっているどんな恋愛よりも神経を尖らせて真剣に向き合ってきた。
こんなにも毎日が潤う様な恋がある訳がない。
我を忘れてしまう程に夢中になれる相手が、こうも都合良く現れる訳がない。
皆様も既にご存知の通り、心が限りなく氷に近い私は仕事として携わっている作品に目を通す度に、非常に夢の欠片もない感想を抱いていた。
「おはようございまーす。永琉先輩、今日も今日とて薔薇みたいですね。」
「朝っぱらから刺々しいって貶してんのか?」
「え!?!?最高に美しいって褒めたつもりなのにそんな捻くれた受け取り方されるの悲ぴい。」
「嘘つけ、微塵も悲しんでないだろ。」
だがしかし、現実は小説よりも奇なり。否、現実は漫画よりも奇なり。
この私が、毎日が潤ってしまう様な恋をしてしまっている。この私が、我を忘れかける程に夢中になってしまう相手を見つけてしまった。