運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
 彩葉は、常連客がやって来る時間が近づき内心ハラハラだ。目の前のふたりは、何やら仕事の難しい話をしている。聞くつもりがなくても聞こえてくる。

 そして、彩葉が抱いていた疑問が解決する決定的瞬間が訪れた。

「怜、明日見て回る方面の……」

 『怜』と聞いた瞬間周りの音が一切遮断された。やはりイケメン王子は、桂の父親だ。以前さくらが、一緒にいたら惚れてしまいそうだと言っていた言葉を思い出し納得する。この容姿でこのオーラ、彩葉には手に負えないと思うが、さくらにはお似合いだと思う。

 だが、彩葉が勝手に取り持つ訳には行かない。

 店と裏のさくらの部屋との距離は目と鼻の先だが、二人にはまだまだ距離がある。

「あの。すみません」
「え?」
「何度か呼んだんですが」
「すみません」
「急用が入りまして。お会計をしていただけますか?」
「えっ、あっ、はい」

 取りあえずは、さくらのことは知られずに済んだようだ。ただ、彩葉には時間の問題に感じる。

 さくらと桂が幸せになれることを願うばかりだ。
 
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