【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 駅はすっかり綺麗に変わっていたけれど、バスに揺られて郊外へ行けば、緑に覆われた山並みが広がる。

都会の高層ビル群よりも、こうして自然に包まれている方が落ち着いた。

 バスを降りて深呼吸すると、澄んだ空気が胸に沁みわたる。

凝り固まった身体を伸ばし、空へ両手を突き上げる。

 向かったのは滝山城址。母とよく歩いた山道だ。

 木々に囲まれた階段を上りながら、こんなに薄暗かっただろうかと記憶を探る。

かつては太陽が降り注ぐ草原のような印象だったのに。

 息を切らせながらようやく辿り着いた頂上には、懐かしい原っぱが広がっていた。

腰をおろし、空を仰ぐ。

 青空はやがて灰色の雲に覆われ、少しずつ光を奪っていく。

 心のおもむくままにここまで逃げてきたけれど──もう、逃げる場所はどこにもないのかもしれない。

 今日食べるもの、今夜眠る場所──生きていくために必要なことを考えるのさえ、もう面倒でたまらなかった。
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