【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

《捺美、意地悪言ってないで早く帰ってきなさい》

　電話口が継娘から継母に代わる。

「意地悪なんかじゃないわ。まだ仕事が残ってるの。毎日、定時で上がれるわけじゃないのよ」

《生意気を言うんじゃないよ！　……お父さん、聞いて！　捺美が夕飯を作らないって言ってるの！》

　継母はわざと大げさに声を張り上げ、私を責め立てながら父を呼びつけた。

《捺美、仕事が忙しいのか？》

　継母たちとは違って、父の声は穏やかで優しい。

「……うん」

《そうか。だが、仕事はあとからでもできる。早く帰ってきなさい》

「……わかった」

　父に言われると、どうしても逆らえない。

　それを知っていて、継母も継娘も父を利用する。

私が父に逆らえないように、父もまた、彼女たちに逆らえないのだ。

たとえ、どんなに理不尽な要求であったとしても。

白を基調とした洗練されたオフィスは、ガラスのパーテーションで区切られ、開放感に満ちている。

観葉植物の鮮やかなグリーンがさりげなく配置され、柔らかな間接照明が空間を上品に照らしていた。

磨き上げられたデスクには最新型のパソコンが整然と並び、オフィスチェアは高級メーカー製で、長時間座っても疲れを感じさせない座り心地だ。

大きな窓からは都心の街並みが一望でき、ちょうど沈みゆく夕陽が茜色の光を差し込み、フロア全体をドラマチックに染め上げていた。