憧れのCEOは一途女子を愛でる
「ずっと部屋に閉じこもっているなんて信じられない」

 私の姿を目にするなり母は反射的に顔をしかめたけれど、自宅で上下セットアップの部屋着を着ていてなにがいけないのかわからない。
 下はワイドパンツ型になっているし、爽やかなミント色で、私のお気に入りなのに。

「髪も適当にまとめただけだし……誰にも見せられない姿ね」

「そんなに酷い?」

「冴実は目もくりっとしているし、きちんとしていたら美人なんだからもったいないわ」

 髪に関してはセミロングの黒髪をひとつにまとめ、落ちてこないように大きめのバナナクリップで止めているだけなので、母の指摘通りかもしれない。
 自分の手で触れてたしかめてみると、いつの間にかサイドの髪が乱れてボサボサになっている。

「仕事をしていたの?」

「ううん。いろいろ勉強してただけ」

「商品部ってそんなに大変? 休みの日は休みなさいよ。デートするとか」

 デートは相手がいないとできないよ、と心の中で反論した。
 そう言われてみると、私は最後にデートをしてから何年経っただろう。元カレと別れた日が最後だから……もう三年が経過した。それ以降恋愛からは遠ざかっているけれど今のところ寂しさはない。
 最初は社会人として働くことで失恋の痛手を忘れようとしていた。でも今は強がりではなくて、仕事が大事だし楽しいと思えている。

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