憧れのCEOは一途女子を愛でる
「おじいちゃんは?」

 リビングのほうに目をやってキョロキョロと見回したけれど、祖父の姿が見当たらない。
 父が病気で亡くなったのは私が十三歳のときで、それ以降は祖母が亡くなってからひとり暮らしをしていた母方の祖父と、母と私の三人で暮らしている。なので我が家では祖父が父親代わりだ。

「囲碁を打ちに行ったわ」

「そう」

 昔から祖父は囲碁打ちが好きで、碁会所には同世代の仲間がたくさんいるらしく、とても楽しそうに交流している。
 年齢を重ねても熱中できることがあるというのは素晴らしいし、うらやましい。
 キッチンで立ったままお茶を飲みつつ母と話していたら、部屋着のポケットに入れていたスマホが着信を告げた。
 誰からなのかと画面を見ると、かけてきたのは祖父だったので、私は通話ボタンを押して「もしもし」と電話に出た。

『冴実、今家にいるか?』

「いるよ。どうしたの?」

『うっかり傘を忘れて出たんだ。悪いけど持ってきてくれないか?』

 私はフッとあきれた笑い声を漏らしつつ、「わかった」と短く返事をして電話を切った。
 祖父が通っている碁会所までは何度か訪れたことがあるし、家から歩いて行ける距離なので、私としても外に出る良いきっかけができた。

「おじいちゃんに傘を届けてくるね」

「まさかとは思うけど、そのままで出かけないでね」

 母が私に視線を送りながら釘を刺す。いくらなんでもさすがにこの格好で外に出るのは恥ずかしいと私もわかっているのに。

「ちゃんと着替えるよ」

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