憧れのCEOは一途女子を愛でる
「あれから朝陽くんとはどうなんだ?」

「どうって……私は一般社員なんだから、通常業務で社長と接点なんかないよ」

 ラグの上にあぐらをかいて座った祖父が、意味ありげな視線を投げかけてくる。
 ……先月、会議室で接点があったと言えばあったけれど。
 あのときは伊地知部長とふたりで話しているところに、急に専務と社長が現れて私も驚いたくらいだ。
 今までそんなことは一度もなかったし、とてもレアケースだったのだと思う。

「冴実が碁会所でたっちゃんと話してるとき、気になる男がいるって言ってたよな? だけど雲の上の存在だって」

「あれは……」

「もしかして、朝陽くんじゃないのか?」

 うっかり口走るんじゃなかった、と後悔しても遅い。
 辰巳さんに聞かれたからポロリと口をついて出たのだけれど、まさか社長が辰巳さんの孫で祖父とも面識があるとは、あのときはまったく予想できなかった。

「本当に雲の上の人なんだよ。おじいちゃんが考えているような関係には絶対になれないから、微塵も期待はしないでね」

 私から手を伸ばそうなどとおこがましい考えは最初から持ち合わせてはいない。
 遠くから羨望の眼差しを向けるだけで充分だ。それ以上望んでも叶わないのは重々承知している。

「朝陽さんは仕事に夢中なの。私のことは興味ないよ」

 以前に商品部がプレゼンをする会議の場で資料を配る作業を手伝ったことがあるけれど、社長はそのとき、どの社員の意見にも真剣に耳を傾けていた。
 時にはあご元に手をやって考え込み、スラスラと資料にペンを走らせる姿がカッコよくて、光輝いていたのを思い出す。

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