憧れのCEOは一途女子を愛でる
 手の甲で頬の涙をゴシゴシと拭う私を目にし、彩羽は眉尻を下げて心配そうな顔をした。

「ごめん、私が百合菜を合コンに誘ったからだね……」

「違う。彩羽のせいじゃないよ」

「ちょっと前なんだけどさ、百合菜って人の彼氏を横取りするのが好きだって噂を聞いたの。優越感を得られるから、って」

 思い返せば百合菜は他人と自分を比べるような発言をよくしていたし、見栄っ張りな性格だった。
 恋人がいる男性を振り向かせることで、自分が勝ったのだと優越感を得ているだけなのだとしたら、私も加那太も利用されたようなものだけれど。
 だとしても、加那太が選んだのは百合菜だ。


 別れてからは、加那太との恋だけを大事にしていた自分がバカみたいに思えた。
 恋愛至上主義だったので、この半年は自分のために時間を費やすことをほとんどしてこなかった。
 そのあいだに周りは、就職先で仕事に活かせるようにと資格を取るなどしてがんばっていたから、私だけすっかり置いていかれてしまった。
 それでも、一番大事にしていた恋愛がうまくいっていればよかったけれど結局ダメになって、ドン底まで気持ちが落ち込む日が続いた。

 大学生活は残りわずか。あとは卒業式だけだから、百合菜とは大学でバッタリ会うことがないのは不幸中の幸いだった。
 どこかに出かける気分になれない中、自室のパソコンデスクに置いていたビジネス雑誌に目が止まる。
 就職先であるジニアールの社長が取材を受けたらしく、インタビューが掲載されているというので書店で購入したのだ。

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