憧れのCEOは一途女子を愛でる
 追い打ちをかけるように更なる衝撃が走った。
 彩羽のようになんでも話せる間柄ではないものの、百合菜のことも友達だと思っていた。だけどそれは私だけだったらしい。

『もういいかな? 明日から加那太と旅行なの。遊びに行くなら泊まりじゃなくてもいいって言ったんだけど、彼って超肉食だよね』

 実家に帰省する話は、加那太がついたウソだったようだ。
 最後の最後まででだらめを口にしてごまかそうとした彼に私は心底幻滅した。
 私とは外に出るのも嫌がったのに、百合菜とは旅行したいと乗り気なのだから、開いた口が塞がらない。加那太はそこまでするほど百合菜が好きなのだ。

『恨まないでね。卒業までもう少しだけど、大学で見かけてもお互い無視しよう』

「百合菜……あんまりだよ」

 フフッと微かに笑ったような気配がしたあと、突然プツリと電話が切れた。
 意図的に百合菜が切ったのだとわかったから私はかけ直すことをしなかった。これ以上会話をすれば傷つくだけだ。

 翌日、彩羽とカフェで会ってすべてを話したら、彼女は目を見開いてしばし二の句が継げないでいた。
 怒りは遅れてやってきたようで、口を真一文字に結んで次第に顔を赤くしていく。

「百合菜も加那太くんも最低!」

 泣くものか、と思っていたのに、自分のことのように怒ってくれる彩羽の顔を見ていると自然に涙が頬を伝った。

「私からも文句を言ってやるわ」

「ありがと。でも大丈夫。彩羽には関係ないって言い返されて終わりそうだし、もう百合菜には関わりたくない」

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