憧れのCEOは一途女子を愛でる
「香椎さんみたいなタイプは伊地知さんの好みだろうな。商品部に配属したらいいかも」

 朔也の意見を聞いて俺も即座にそう思った。
 そんな話をしたからか、彼女のことはこの日初めて会ったというのに、鮮明に記憶に残ったままだった。

 そして朔也が予想したように、翌年新入社員として入社し、商品部に配属された彼女は部長の伊地知さんと驚くほどウマが合った。
 雑談がてらに仕事の話をしていても、伊地知さんの口から彼女の名前が必ず出るようになる。
 面接での俺の直感は間違っていなかったと誇らしい気持ちが湧いた。

 そうして三年が経ったある日、俺が用事で商品部に赴いたとき、一心不乱にパソコンの画面を見つめて仕事に打ち込む彼女の姿を見つけた。
 薄めのメイクで透明感があり、上品でやさしそうで……とても綺麗だ。
 社長である俺が突然声をかけたらとまどうだろうと考えてそっと見守るしかできなかったけれど、なにごとにも真剣に取り組む彼女のことが、入社以来ずっと気になっていた。


「いつまで独身でいるつもりなんだ。早く身を固めろ」

 ここ何年か祖父から顔を合わせるたびにそう言われ続けていて、口には出さないが本心ではうんざりだった。
 いちいち反発する年齢ではないから、説教めいた言葉が聞こえても適当にやり過ごすようにしている。
 男は結婚してこそ一人前だ、という昔ながらの考えが祖父の中にあるようで、幾度となく見合い話を持ってくるからいつも断るのに苦労する。

「朝陽、お前にピッタリな子がいるんだよ。会ってみないか? 俺はあの子がいいな。気に入ってるんだ」


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