別れが訪れるその日まで

20 告白の返事

 う、ううう、嘘でしょ⁉
 す、すすす好きって!
 待って、待つんだ私。まずは落ち着いて、深呼吸しなくちゃ。

 紫苑君は私の反応を、じっと待っている。お姉ちゃんはニヤニヤした顔で私達を見てるけど、勘違いしちゃいけない。

「え、えーと。好きって言うのは、その。友達としてって意味だよね。そうだよね、友達が怪我してるってなったら、放っておけないものね」

 よーし、ちゃんと言えた。
 都合のいい勘違いなんてしないんだから。

 けど違うって分かっていても、さっきのは驚いたし、今も胸がドキドキしてるよ。
 だけど紫苑君は、さっきまでの赤い顔が一転。スッと冷めた表情になる。

「芹さん。それ、本気で言ってる?」
「ふぇ?」
『芹、あんたって子は』

 お姉ちゃんも手で頭を抑えながら、呆れた顔をしている。
 すると突然、紫苑君が手を握ってきた。

「し、紫苑君?」
「友達だからじゃない。僕は小学生の頃から……ううん、たぶんもっとずっと前から、芹さんのことが好きだよ。もちろん、女の子として」
「──っ!?」
『おおっ!』

 ガツンと殴られたみたいな衝撃が、頭に走る。
 う、うそ? えっ、本当に!?

「今まではきっかけが掴めなくて言えなかったけど、もう限界。もっと態度をはっきりしていたら、今回の事だって防げたかもしれないのに。僕はもっと芹さんの、力になりたいよ」

 至近距離でじっと見つめられ、息が止まりそう。

 か、勘違いじゃなかったの?
 けど私はまだ、彼の言葉を素直に受け取ることができなかった。

 紫苑君が、私を好き? ずっと前から?
 ううん、違う。違うよ。それだけは、絶対にあり得ない。
 だって、だって紫苑君は……。

「…………おかしい」
「えっ?」
「おかしいよ! だって紫苑君は、お姉ちゃんのことが好きなんじゃなかったの!?」
「『はぁっ!?』」

 私は驚いたけど、紫苑君も。そしてお姉ちゃんも、驚いたようにそろって声を上げる。

「待って。僕が奈沙さんを? そんなこと、誰が言ったの?」
『そうだよ! 紫苑君前からずっと、芹のこと好きだったじゃん!』

 へ? ど、どういうこと? お姉ちゃん、知ってたの!?

 もう一度飛び出した衝撃発言に目を丸くすると、お姉ちゃんは『ヤバッ』と口を押さえる。
 そして紫苑君は紫苑君で、頬を赤く染めながらぽつぽつと話し始める。

「何か勘違いしてるみたいだけど、それは違うよ。僕が好きなのは、芹さんだよ」

 ドクンと心臓が跳ね上がる。
 さっきおんぶしてもらった時よりも、ずっとドキドキして今にも爆発しそう。

「本当は引っ越す前に、言おうと思ってたんだ。だけど奈沙さんがあんなことになって、言えずにいたけど。ずっと後悔してた」
『へ? あたしが原因だったの? そんなの気にせず、告白してればよかったのに』
「けど、こうしてまた会えた。だから、今度こそ言うよ。僕は、芹さんのことが好き」

 じょ、冗談じゃないよね。
 紫苑君はそんなタイプじゃないし、この眼差し。嘘を言ってるようには見えない。
 それじゃあ、本当に? 紫苑君が、私のことを好き? お姉ちゃんじゃなくて、私を?

『……芹、芹』

 混乱して、頭の中がぐるぐるになっていると、お姉ちゃんがささやいてくる。

『何やってるの、早く返事しなよ。芹だって、ずっと紫苑君のこと好きだったでしょ』

 そうだ。
 好きな男の子に好きって言われたんだもの。私もずっと前から好きだったって、返事をするべき。
 そのはずなんだけど……。

 ──紫苑君が好きなのは、芹ちゃんじゃなくて、奈沙ちゃんなんだよ。

 前に言われた言葉が、頭の中に蘇ってくる。
 そうだ。私はその言葉にショックを受けて。それから、それから……。

『芹、なんだか震えてるけど、大丈夫?』

 お姉ちゃんに言われて、ハッと気づく。
 いつの間にか手足がガタガタ震えていて、火照っていた体が急速に冷めている。

 紫苑君が私のことが好きで、私だって紫苑君の事が好き。
 お姉ちゃんもそれを祝福してくれてる。
 だけど私は、私は……。

「…………ごめんなさい」

 口から零れたのは、冷たい拒絶の言葉だった。

『はあっ? あんた何言ってるの、返事が違うでしょ!』

 うん、分かってる。分かってるよ。
 本当は、私も好きだったって言いたい。でもダメなの。
 だって私には、その資格がないから。紫苑君のことを

 ス キ ジャ イ ケ ナ イ ン ダ

「ごめん……本当に、ごめんなさい……」

 顔を伏せて、ガタガタと肩を震わせながら、謝罪の言葉を繰り返す。

 お姉ちゃんはまだギャーギャー言ってるけど、頭に入ってこない。
 そして紫苑君はと言うと、お姉ちゃんとは対照的に、いたって静か。そして、とても寂しそうに小さく笑った。

「そっか。ごめんね、変なこと言って」

 ──っ!
 胸にヒビが入ったような、痛みが走る。

 ああ、そうだ。私は今、紫苑君を傷つけたんだ。

 早くも後悔の念が押し寄せてきたけど、でもダメ。私なんかが紫苑君の気持ちに、応えちゃいけないんだ。

「ごめん……ごめんね、紫苑君」
「ううん、気にしないで。今のは、忘れてくれていいから」

 寂しげな笑顔を見てると、泣きそうになる。
 だけど紫苑君はもっと傷ついているのに、泣いちゃいけない。

『もう、二人とも何やってるの! こんなのおかしいよ!』

 私も紫苑君も無言の中、お姉ちゃんの声だけがむなしくひびく。
 すると木々の向こうから、今度は別の声が聞こえてきた。

「おーい、鈴代さーん、春田君!」
「二人ともどこー!?」

 あれは、先生の声。
 どうやら私達のことを、探しに来てくれたみたい。

 紫苑君は「見てくる」と言ってその場を離れて、お姉ちゃんと二人きりになる。

『芹、これはいったいどういうこと?』

 納得いかないといった様子で、私をにらんでくるお姉ちゃん。
 うん、分かってる。ずっと応援してくれていたのに、それを裏切ったんだもの。怒るに決まってるよね。
 だけど私は、何も答えられない。

 それからやって来た先生達に保護されたけど、私もお姉ちゃんも紫苑君も、ずっと黙ったままだった。
< 21 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop