恋してはいけないエリート御曹司に、契約外の溺愛で抱き満たされました
「すみません、ありがとうございます」
ずいぶんと丁寧な扱いをしてもらい、胸がときめきを覚える。
離婚前提の偽装の妻になるという約束をしたからなのだろうか。
「こんな目の前まで、お手数おかけしました」
降車し、私の手を引いたままビル前の歩道に上がった筧さんに声をかける。
しかし、筧さんの手は離されない。それどころか、手を引いて会社の入るテナントビルへと入っていく。
「筧さん? あの──」
これはいったいどういうことなのだろうか。
多数の会社が入るビルのエントランス周辺には、出勤してきた多くの人々がいる。
そこでこんなふうに手を引かれている私はもちろん目立ってしまい、周囲からの視線が次々と突き刺さる。
でも、筧さんにはまったく気にする様子はない。
これだけ注目を浴びても怯まないのはさすがだけれど、私はどこを見たらいいのかわからず足もとと筧さんのきっちりとセットされた黒髪を交互に見ることしかできない。
ちょういいタイミングできたエレベーターに乗り込み、筧さんは操作盤の前に立つ人に「五階をお願いします」と目的階を知らせた。
ほかに乗り合う人たちがいるため、エレベーターが上昇を始めても筧さんに声をかけられない。
そのうちに会社が入る五階に到着し、再び筧さんに手を引かれた。