恋してはいけないエリート御曹司に、契約外の溺愛で抱き満たされました
「はい。その前にちょっと、お手洗い行ってきますね」
午前中の仕事が片付き、もうすぐお昼休憩の時間。タイミングを見計らってお手洗いに立つ。
お手洗いから出たところで湯島くんが待ち伏せるように通路に立っていて、「ちょっといいか」と呼び出された。
そのままあまり人の来ない通路の奥に向かっていく。
突き当たりまでいった湯島くんは振り返り、じっと私の顔を見つめた。
「仕事、辞めるって耳に入ったんだけど?」
どこかからもう聞いたのかと、内心びっくりする。狭い部署内のことだ、課長が話しているのが聞こえたのかもしれない。
「ちょっと……実家に戻ることになって。親が体調を崩してしまって」
湯島くんにも、嘘をついておいたほうが平和だろうと、無意識に判断したのだろう。口から勝手に嘘が出ていく。
「へぇ……」
興味もないという反応なのか、それとも嘘を見抜かれているのか。
湯島くんの掴めない様子に、なんとなくうしろめたくて視線を泳がせてしまう。
でも、こんなふうに関係が壊れてしまっていても、やっぱりわずかに寂しさが込み上げる。
親の具合が悪いなんて聞いても、『大丈夫?』のひと言も出ないくらい感情がもう動かないのだ。