幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
そして早速ゲネプロが始まった。

サラッと軽く合わせているようで、無駄のない時間の使い方、そして完成された曲の響きに朱里は胸がいっぱいになる。

赤坂は指揮を振りながら、続けて、と手で合図してホールの客席に下りた。

コンサートマスターの動きに合わせて、曲は続く。

客席のあちこちを練り歩きながら、時々立ち止まって考える仕草をしてから、赤坂はステージに戻ってきた。

「えーっと、ホルンさん。もう少し内側に入って。チューバは少し外側に」

会場の響き方に合わせて配置を微調整しながら、曲を進めていく。

やがて『新世界より』の曲順になった。

朱里の紹介で吹奏楽部の10人が入ってくる。
緊張の面持ちの子ども達を、団員はにこやかに拍手で迎えた。

「じゃあ、ブラスセクションだけ残って。弦は一旦はけてください」

赤坂の指示でステージ前方の団員達が一斉に立ち上がり、上手と下手に別れて舞台袖に行く。

残されたのは10人の子ども達と、管楽器、打楽器の団員だけだ。

今回吹奏楽部の子ども達に合わせて、赤坂は吹奏楽用に曲をアレンジしてくれていた。

そして有名なイングリッシュホルンのソロを、子ども達がそれぞれの楽器で一人ずつリレーで繋いでいくのだ。

「早速頭からやってみるよ」
「はい!」

子ども達は真剣な表情で赤坂の指揮を見る。

ドヴォルザークが1893年に作曲した『交響曲第9番』 新世界より は4楽章で構成されており、彼のアメリカ時代を代表する作品であると同時に彼の最後の交響曲でもある。

この作品のタイトルとなっている「新世界」とはアメリカのことで、ドヴォルザークがアメリカにいた時に故郷へ向けて書いたのが、この『新世界より』なのだ。

第2楽章Largoは、日本人にも耳馴染みのあるイングリッシュホルンによる主部の主題が登場する。
この主題はドヴォルザークの死後に愛唱歌として歌詞が付けられて編曲され、日本人も一度は必ず耳にしたことがあるほど有名である。

静かな短い序奏の後、すぐにオーボエの子のソロが始まった。

次いで、クラリネット、フルート、サックスなどが繋いでいく。

トランペットやホルン、トロンボーン、ユーフォニアムの金管も含めて吹奏楽部全員がソロでメロディを繋ぎ、穏やかに第2楽章は終わった。
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