Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
エピローグ
 再会後の一週間の最終日。お互いの両親へ挨拶に行った。両親たちからの後押しもあり、とりあえず婚姻届だけは先に提出をし、正式に夫婦となった。

 それから一ヶ月。宗吾は本社での仕事が始まり、挨拶回りや新しい役職での仕事をこなしながら(せわ)しない日々を送っている。

 新居については宗吾の仕事が落ち着いてから考えようと話し合ったため、六花と愛生は今の家に留まり、とりあえず今は週末だけ三人での親子の時間を過ごしている。

 一人の時は娘の世話をして家事もやって、大変なことも多かったし、何か不安や悩みがあっても相談することも出来ずに抱え込んでいた。でも今は一緒に考えてくれる相手が出来たことで、以前より心が軽くなった気がした。

 宗吾は離れている間も動画や本を読んで家事や育児を覚えようと頑張っていたらしく、最初こそぎこちなかったものの、今はスムーズにこなしている。

 私たちが遠回りをしなければ、もしかしたらこれが当たり前の日常だったのかもしれない。だけど遠回りをしたからこそ、この当たり前な日常が幸せなことなのだと実感出来るのだと思う。

 キッチンの片付けを済ませると、宗吾が愛生の寝かしつけをしている間に風呂に入る。少し前までは六花でないと寝なかったが、愛生自身も宗吾を認識し始めてきているようで、今では宗吾に抱っこをされながら眠ってしまうこともあった。

 離れていた時間を、ゆっくりとではあるが、着実に縮めている実感があり、それは六花を安心させた。

 風呂から出た六花が居間に戻ると、ソファに座ってテレビを見ていた宗吾が顔を上げ、笑顔で六花に向かって手を広げる。

 なんだか照れ臭さを感じながらも、その腕の中へと飛び込んだ。体をギュッと抱きしめられると、ホッとして力が抜けてしまう。

 こうして宗吾に甘える日が来るなんて思いもしなかった。だけど彼の腕に包まれると、一人で全て頑張らなくてもいいのだと思える。二人でいるんだから、二人で分け合うことも大切なのだと感じさせてもらえる。

 宗吾はきっと、甘え下手な私のことをわかっててやっているに違いないわーーそういう彼の気持ちが素直に嬉しかった。

「お疲れ様。ゆっくり入れた?」

 濡れた髪を宗吾の大きな手で撫でられ、六花はそっと目を伏せる。

「うん……寝かしつけ、ありがとう」
「結構すぐ寝ちゃったかな。俺も横で寝落ちしたんだけど」
「わかる。ダメだと思っても睡魔には勝てないんだよね」

 宗吾の手の力が緩み、六花の瞳を見つめたかと思うと唇を塞がれた。

 週末の夜だけの二人の時間ーー慌てなくても時間はたくさんある。お互いの存在を確認し合うように、胸に溢れ出す愛情を伝えるかのように、ゆっくりと深いキスを繰り返す。
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