Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
「返事は?」
「ちょっと待ってよ。そんなすぐに返事なんて……!」
「じゃあカウントダウンするよ。三、二、一」
「わ、わかったわよ! 一週間だけ!」
「よし、決まり」
流されるように返事をした六花に、宗吾はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
反論しようとした六花だったが、前方に目をやった宗吾の表情が突然変わったため、思わず口を閉ざした。
彼の視線の先を追ってみると、恰幅の良い六十代半ばくらいの男性が手を上げにこやかに近付いてくる。宗吾は六花のそばから離れてその人物の方へ歩いていくと、笑顔を浮かべて丁寧に頭を下げた。
「大河原社長、ご無沙汰しております」
「やぁ、宗吾くん。久しぶりだね。貴島社長から噂は聞いているよ。最近はずっと海外にいたんだってね」
「父から武者修行に出されまして。半年ほど欧州を転々としていましたが、来週からようやくこちらでの業務に復帰する予定です」
「そうだったのか。社長も君には期待しているようだし、また宜しく頼むよ」
「ありがとうございます」
大河原社長がチラリと六花を見たので、反射的に頭を下げてしまう。
宗吾の苗字は貴島だった。ということは社長子息ってこと? それに半年間海外にいたって……。
混乱する六花の手を取ると、宗吾は会場の入り口に向かって歩き始める。
「行くぞ」
「えっ、ちょっとどこに行くの? あの、向こうで先輩たちが待ってる……」
「先輩には後で連絡する」
「それにまだあなたに言いたいことが……」
「後で聞く」
あまりに強引に手を引かれ、訳もわからず会場を後にする。宗吾の背中しか見えないが、どこか焦っているようにも感じた。
まさか……私が逃げるとでも思ってるの? 六花がしたことを考えれば、宗吾がそう思っていてもおかしくはない。
会場を出てすぐに六花は、宗吾の手を力いっぱい引き寄せてその場に立ち止まる。
「あのっ、一つだけいい? 実家に電話を入れたいの。一週間も帰らないなんて勝手なことは出来ないから」
まさか愛生と一週間も離れることになるなんて思わなかった。朝の両親の悪い冗談が現実になるとわかっていたら、もっと別れを惜しんだのに……いや、そもそもここには来なかっただろう。
「後でもいいだろ?」
エレベーターに向かっていた宗吾は振り返ると軽くそう言ったが、六花はそれは無理だった。娘のことを隠しているのに、その父親本人に聞かれるわけにはいない。
「忘れたら困るし……すぐに済ませるから」
「わかった」
宗吾が手を離した瞬間、六花は彼から距離を取るように小走りに窓の方へと近寄る。それからすぐにスマホを取り出して電話をかけた。
「ちょっと待ってよ。そんなすぐに返事なんて……!」
「じゃあカウントダウンするよ。三、二、一」
「わ、わかったわよ! 一週間だけ!」
「よし、決まり」
流されるように返事をした六花に、宗吾はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
反論しようとした六花だったが、前方に目をやった宗吾の表情が突然変わったため、思わず口を閉ざした。
彼の視線の先を追ってみると、恰幅の良い六十代半ばくらいの男性が手を上げにこやかに近付いてくる。宗吾は六花のそばから離れてその人物の方へ歩いていくと、笑顔を浮かべて丁寧に頭を下げた。
「大河原社長、ご無沙汰しております」
「やぁ、宗吾くん。久しぶりだね。貴島社長から噂は聞いているよ。最近はずっと海外にいたんだってね」
「父から武者修行に出されまして。半年ほど欧州を転々としていましたが、来週からようやくこちらでの業務に復帰する予定です」
「そうだったのか。社長も君には期待しているようだし、また宜しく頼むよ」
「ありがとうございます」
大河原社長がチラリと六花を見たので、反射的に頭を下げてしまう。
宗吾の苗字は貴島だった。ということは社長子息ってこと? それに半年間海外にいたって……。
混乱する六花の手を取ると、宗吾は会場の入り口に向かって歩き始める。
「行くぞ」
「えっ、ちょっとどこに行くの? あの、向こうで先輩たちが待ってる……」
「先輩には後で連絡する」
「それにまだあなたに言いたいことが……」
「後で聞く」
あまりに強引に手を引かれ、訳もわからず会場を後にする。宗吾の背中しか見えないが、どこか焦っているようにも感じた。
まさか……私が逃げるとでも思ってるの? 六花がしたことを考えれば、宗吾がそう思っていてもおかしくはない。
会場を出てすぐに六花は、宗吾の手を力いっぱい引き寄せてその場に立ち止まる。
「あのっ、一つだけいい? 実家に電話を入れたいの。一週間も帰らないなんて勝手なことは出来ないから」
まさか愛生と一週間も離れることになるなんて思わなかった。朝の両親の悪い冗談が現実になるとわかっていたら、もっと別れを惜しんだのに……いや、そもそもここには来なかっただろう。
「後でもいいだろ?」
エレベーターに向かっていた宗吾は振り返ると軽くそう言ったが、六花はそれは無理だった。娘のことを隠しているのに、その父親本人に聞かれるわけにはいない。
「忘れたら困るし……すぐに済ませるから」
「わかった」
宗吾が手を離した瞬間、六花は彼から距離を取るように小走りに窓の方へと近寄る。それからすぐにスマホを取り出して電話をかけた。