Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
 感情がごちゃごちゃしている……。自分のことなのにどうしたいのか、彼にどうしてほしいのか複雑でわからなかった。

「そんなに俺との結婚が嫌? 結構傷付くんだけど」
「安心して。別にあなたとの結婚が嫌なんじゃない。ただもう結婚とかがどうでもいいだけ」

 再び会場に拍手が鳴り響いたかと思うと、人々が動き出して歓談が始まった。

 宗吾は体を離して六花の隣に立つと、壁に寄りかかった。

「残りは一週間だったんだ」
「疑似恋愛の期間? 確かにあと一週間だったけど、その一週間で私があなたとの契約結婚を快諾したと思うの?」
「さぁ、快諾はないかな。それなら家を出たりしないだろ?」

 その言葉に胸が痛む。もし妊娠していなかったら? それならその場に留まったかもしれない。契約結婚を受け入れたかはわからないけど。

「でも人はやったことより、やらなかったことへの後悔の方が心に残るって言うからさ」

 ドキッとした。その言葉は、以前六花も胸に刻んだものだった。しかも宗吾と同じように、あの日の選択を振り返りながらーー。

 宗吾の指が六花の髪を絡め、じっと彼女を見つめる。眉間に皺を寄せ、まるで六花にも同意を求めているようにも見えた。

「……何が言いたいの?」
「残された疑似恋愛の最後の一週間をやり直さないか?」
「無理よ。あの頃とは違うんだし、それに……!」

 娘を一週間も両親に預けることは出来ないと、危うく口が滑りそうになり、慌てて両手で口を押さえる。

「もし引き受けてくれたら、一週間後には婚姻届を返すよ。お前の好きにすればいい」
「断ったら?」
「今すぐ役所に提出する」

 一週間我慢すれ全てを白紙に戻して、今後の関わりも断つことができる。ただそのためには宗吾と二人きりにならなければいけないし、娘とも一週間会えなくなる。

 それでもこの先穏やかに暮らすためには必要な選択だった。なのに嵌められた感が否めないのは、宗吾の気持ちがわからないからだ。
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