幼なじみ社長は私を姫と呼んで溺愛しています
Prologue
「は?結婚?私が?」

それはある日突然訪れた。まさに青天の霹靂。

ソファに座る私の前に両親が並んで正座をしているこの図。

これを見れば、冗談で言っているわけじゃないことはわかる。

「お前も知っての通り、ウチの和菓子屋はもう潰れるのを待つだけの状態だ。
正直、一家心中も考えていた」

『店が潰れたら一家心中だな』なんて父は時々笑っていたけど、それ本気だったのか。

そう思ったら背筋が急に寒くなる。

聞けば、安月給OLの私はもちろん、父と母が他の仕事を見つけて働きに出ても返しきれない額の借金を抱えているという。

借金を返すために他のところから借金をして、二進も三進もいかなくなり、最終的に怖い人が押しかけてきて、『期限とっくに過ぎてんだよ!出て来いよオラ!』とかいうドラマみたいな展開になるんだろうか。

「そこへ、店番をしていたあなたに一目惚れしたという男性が現れて…
聞けば一家で会社を経営しているお金持ちだそうよ」

「ウチの娘には背中に大きな火傷の跡がありますって言ったんだけど、そんなことは気にしませんって。
こんないい話他にあると思うか?」

切実すぎる父と母の目を交互に見ながら、頭の中を必死で整理した。

つまりこのままだと一家心中。そしてこれを回避できる方法は…

「…要は身売り?」

「…お願いします!」

頭を下げる2人の声が重なって、眩暈がした。

いつの時代の話よ。


野々原 遥(ののはら はるか)25歳。

まさかの身売りで嫁に行かされることになりました。

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