幼なじみ社長は私を姫と呼んで溺愛しています
―― コンコン

ノックが聞こえて返事をしたら、失礼します、と入って来たのはスーツ姿の女性だった。

ボブカットでピンときた。

この人は、婚姻届を用意してくれた人…秘書の…何さんだっけ。

「ご挨拶が大変遅れました。
社長の第一秘書をしております、香坂と申します」

彼女は穏やかに頭を下げた。

ああ、そうだ。香坂さんだ。

「私は失礼ながら、遥さんのことをずっと『姫』というお名前だと思っておりまして…
入籍の時に初めて本名を知りました」

「ははは」

とりあえず愛想笑いを浮かべる。

会社でも『姫』とか言っていたのか、千紘め。

「私は設立当初から社長の秘書をしております。
社長は姫…いえ、遥さんと結婚することが夢なのだとずっとおっしゃっていました。
社長の夢が叶って、本当に良かったと思っています。
姫…いえ遥さん、お幸せになってください」

香坂さん、完全に『姫』に言い慣れてる感が…

「ありがとうございます。
今後とも主人をよろしくお願いします」

…主人。初めていったかも。主人。ちょっと恥ずかしい。



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