幼なじみ社長は私を姫と呼んで溺愛しています
棗くんの推論を否定しきれないのは、まだ幼かった私にはあの時の記憶が曖昧だからだ。

私は一人で遊んでいた。母は2階に洗濯物を干しに行っていた。

沸騰する鍋をなんとかしようとして、私はそのお湯を被ってしまった。

それは父の説明で、私はそれが正しいと思って生きてきた。

説明に矛盾点や不審点も感じなかった。

どうしてそこに千紘の名前が出てくるの?

「申し訳ないけど、あんな跡があるんじゃ嫁の貰い手もない。
千紘は責任を取ったってことだな。不憫なやつだ」

ズキンと胸の奥が痛む。

「まあ元はと言えば俺が悪いけど、店舗撤退でうちは大打撃だ。
このくらいのことは言わせてもらってもいいだろう」

彼は私の手を離し、クスクス笑いながら道の向こうへ消えて行った。

記憶が曖昧であっても、あの場に千紘がいなかったのは確かだと思う。

私は家に友達を招き入れることができなかったから。

うるさくすると母が怒鳴るから。連れてくるなと言われるから。

なのに…

私を傷つけたってなんのこと?

千紘はあの火傷に何か関係しているの?



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