非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
牧は再び目を閉じると、静かに首を振っている。

「……湊斗さんは? 病院って、湊斗さんは無事なんですか?!」

一毬は倉田に支えられ、震えながらなんとか言葉を出す。
牧は一毬の前に来ると、落ち着かせるように大きくうなずいた。

「安心してください。命に別状はありません。ただ怪我をしているようで、今は病院で眠っているとのことでした」

牧の言葉に一毬は目元に手を当てると、溢れ出す涙を感じる。
湊斗が襲われて怪我をするなんて、どうしてそんなことが起こるのか。

怒り、悲しみ、不安、憤り……。
一毬の中で様々な感情が入り乱れる。

一毬は倉田に促され、倒れ込むように椅子に腰を下ろした。

「牧さん。一体どういうこと……?」

倉田もひどく動揺しているのか、デスクについた手が小刻みに震えている。

「社長がマンションの入り口を出たところで、二人組の男に襲われたということでした。幸い目撃者は多数いて、犯人はすぐに現場を逃走したそうです」
「湊斗を狙ったってこと?」
「そこまでは、今の所わかっていません」

重苦しい空気が流れる。
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