非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~【コミカライズ原作】
 ――そんな大切な女性がいるんじゃ、私があの部屋にいちゃいけないよね……。


 しばらくして、しゃがみ込んだまま立ち上がれないでいる一毬の隣に、誰かが寄り添うように屈むと、書類を手際よく集め出した。

「佐倉さんにお願いしたい仕事があるんだよね。ちょっと良いかな?」

「……え?」

 一毬が顔を上げると、楠木が集めた書類を手渡しながらにこやかにほほ笑んでいた。


「吉田さんもおしゃべりは程々に、業務に戻ってくださいね」

 楠木のやんわりとした言い方に、吉田は首をすくめると、そそくさとデスクに戻った。

 楠木は一毬の腕を支えるように立ち上がらせると、優しく肩を押して椅子に座らせる。


「あの、お願いしたいことって……?」

 一毬が隣を見ると、楠木は人差し指を口元に当てながら、静かにほほ笑んだだけだった。


 ――もしかして、私のこと気づかってくれたの?


 一毬は楠木に小さく頭を下げると、気持ちを切り替えるようにパソコンに向かった。
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