一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

「嬉しいです!柳瀬さんには伝えたんですか?」
「聞いてよ、出水ちゃん!昨日メッセージ送ったら、あいつ既読無視しやがった!ったく!同期が凱旋帰国したっていうのに血も涙もねえんだよ!ほんっとあいつは昔から……」
「あははっ!」

 光莉はゲラゲラと笑った。柳瀬と遊佐のやりとりも相変わらずだ。同期同士、言いたいことを言い合う二人は法人営業部の中でも評判のケンカップルだった。

「旧交を温めるのもいいが、そのくらいにしておけ」

 二人で笑い合っているとプロジェクトを率いるリーダーが現れた。

「瀧澤さん」
「すみません、瀧澤専務」
「ミーティングが始まる時間だ。早く席についてくれ」

 会議室に集められたのは十五名ほど。法人営業部、空間デザイン部、海外事業部、生産管理部などのそうそうたるメンバーだ。
 年齢も所属部署も異なる彼らを直接指揮するのは瀧澤だ。
 
「以上が今回のプロジェクトの概要になる」

 ミーティングが始まりプロジェクトの概要を瀧澤から説明されると、一気に身が引き締まる。
 四十階建てのホテルのインテリアを一手に任されるというTAKIZAWA史上類を見ない大ががりなものだ。
 階や部屋のグレードごとにコンセプトも異なり、用意しなければならないインテリアの数もバラバラ。これは重大任務だ。

「とにかく数と種類が多い。その上、納期までは時間がない。問題が発生したらすぐに共有するように」

 その後、役割分担と諸注意事項が伝えられ、キックオフミーティングは終了となった。

「出水さんだけ残ってくれ」
「え!?あ、はい!」

 名指しで居残りを命じられ、周りの女性社員からの視線を感じ居た堪れなくなる。

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