一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?
レッスン7.星空のワルツ


「出水ちゃん、ちょっとメイク変えた?」
「わかります?」
「うん、すげえ華やかになった!服の趣味も変わったから、パッと見だと誰がわからないくらいだよ」

 遊佐に褒められると、なんだか照れてしまう。光莉のフレッシュな新人時代を知る先輩だけに、気恥ずかしいものがあった。
 遊佐は海外事業部に空きのデスクがないということで、プロジェクトチームが稼働している間は古巣の法人営業部を間借りしていた。デスクの位置は光莉の隣。
 遊佐がいると普段は静かな法人営業部もパッと明るくなる。歩くデスクライトのような男だ。

「ねえねえ、ひょっとして彼氏でもできた?」
「と、とんでもないです!お洋服は友人にもらったんです」
「『友人にもらった』なんて、怪しいなあ……」

 遊佐はニヤニヤしながら、光莉をからかい始めた。シンガポールに行っている間に、おちょくり方に磨きがかかったようだ。
 
「もう!そんなこと言ってないで早く、片付けましょう!」

 光莉と遊佐は共に上海新ホテルのプロジェクトチームの一員である。二人がタッグを組んで行っているのは、新ホテルに納品するインテリアの在庫確保だ。

 TAKIZAWAのインテリアは完全受注生産のものもあるが、人気商品はある程度の在庫を保有している。二人の役割は国内倉庫から在庫を出庫するための社内手続きだ。これが、結構大変な作業だ。

 同じ作業を二週間前から行っているが、まだ二人に割り当てられた分量の三分の一ほどしか終わっていない。

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