一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

「サンライズホテルの件で遊佐さんと色々シンガポールでの仕事の話を聞いてから、ずっと気になっていて……。二年の任期の半分なので一年とちょっとなんですけど、私も向こうで仕事をしてみたいなと思ってるんです」

 瀧澤にとっては寝耳に水の話だろう。光莉は膝の上で拳を握りしめた。瀧澤と出会い、愛され、光莉は変わった。かつてのように自分の身体を他人と比べて卑下しない。

「久志さんと一緒にいるとすごく幸せで満たされる。等身大の私を愛してくれる。でも、それだけじゃダメなんです。私が胸を張って久志さんの傍にいるためにはもっと自分に自信が欲しい。きっとひとまわり成長して戻ってきます。だから……日本に戻ってきたら私と結婚してくれませんか……?」

 一世一代のプロポーズだった。
 世間一般では男性がプロポーズするものだって認識だけれど、どうしても自分から言いたかった。
 光莉から逆プロポーズされた瀧澤は大きく息を吐き出した。
 
「君は……つくづく私の予想の上を行くな」

 瀧澤は光莉を抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。

「どこに行っても忘れないでくれ。君は私にとってかけがえのない女性だ。日本に戻ってきたら結婚しよう」
「嬉しい……」

 光莉の目から涙がポロリとこぼれ落ちた。二人は感情の赴くまま何度も口づけを交わした。
 
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