一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

 瀧澤は光莉を三十二階にあるスイートルームに連れてきた。
 スイートルームの中に入るなんて二十七年間生きてきて初めてのことだ。
 二人を歓迎するかのように、窓の外には眩い夜景が広がっていた。

「シャワーを浴びるか?」

 瀧澤からそう尋ねられると、光莉は借りてきた猫のようにかしこまって頷いた。

(夢、じゃないんだよね……?)

 シャワーを終え、バスローブに着替えても実感が湧かなかった。
 そのままメインルームのベッドで待っていると、ゲストルームまでシャワーを浴びに行っていた瀧澤がやってきた。髪がまだ濡れている。前髪が下ろされた瀧澤を初めて見た。こちらの方がいくらか親しみやすい。
 今日は初めてづくしだ。

「緊張しているのか?」

 いつか、接待テニスの日が近づいてきたとき、同じことを瀧澤に尋ねたことがある。光莉はあの時の瀧澤よりもよっぽど緊張していた。心臓が口から飛び出してしまいそう。

「あ、の……。私、本当に大した身体でもなくって……。途中でやめたくなったらすぐに言ってください……!」

 この期に及んでみっともない予防線を張ることしかできなくて、情けなくなってくる。これから瀧澤に抱かれたとして、果たして自信とやらはつくのだろうか。

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