出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
そのあとすぐ千佐都も出社し、実乃莉は何事もなかったように仕事を始めた。
今は主に、支払い関係は深雪が、請求関係は実乃莉が行っている。
末締めの請求書は今週中には送ってしまいたい。実乃莉はデータを見ながら、請求金額の確認できていない取引先の洗い出しを始めた。
「おはよ〜」
忙しいときほど時間が経つのは早い。遅出の深雪が出社してきて、そんなことを思う。
「おはようございます。龍さんですが、今日は午後から出社予定だそうです」
「そうなんだ。やっと落ち着いたのかしらね」
「だと……いいんですけど……」
あの手紙の文面が浮かび、実乃莉の表情に暗い影を落とす。先週のあのトラブルが繋がっているとは言い切れない。けれどそう思わざるを得ない自分がいた。
「実乃莉ちゃん……」
深雪が言いかけると外線がなり、実乃莉はそれを取る。会社名と自分の名を淀みなく口に出すと、相手の男性はいきなり切り出した。
『あんたか。鷹柳ってのは』
「さようでございます」
自分が何者なのかも言わない相手に、実乃莉は顔を強張らせながら答えた。
『どうなってるんだ! この請求書は! 前回の倍額になるなんて聞いてないぞ‼︎』
相手の口調とまだ出していないはずの請求書の話を持ち出され実乃莉は混乱していた。
「もうしわけございません。すぐに確認いたします。御社のお名前といつ付けの請求書か教えていただけますか?」
実乃莉はすぐさま聞き取った内容を確認する。いや、見なくてもその内容が違っていることはわかっていた。つい今しがたまでデータを見ていて、その会社の金額が前月と変わりないことは確認済みだったのだから。
けれど相手は、間違いなく先月分、つまり実乃莉が今から送る予定の請求書だと言い張っていた。
「ご迷惑をおかけし、大変もうしわけございません。手違いがあったものと思われます。至急正しいものお送りいたします」
こんなクレームは初めてで、実乃莉はどう謝罪するのが正しいのかもわからない。それでも誠心誠意謝ったことが伝わったのか、相手は深い溜め息を吐きながらも怒りを収めた。
『しっかりしてくれよ。それでなくとも最近あんたんところ、いい噂聞かないんだから』
「……えっ? それはどう言う……」
思いがけないことを聞かされ、実乃莉は慌てて尋ねる。けれど相手は自分の失言に気づいたのか『じゃ、請求書頼む』と言うなり電話を切ってしまった。
そして実乃莉は、受話器を持ったまま呆然としていた。
今は主に、支払い関係は深雪が、請求関係は実乃莉が行っている。
末締めの請求書は今週中には送ってしまいたい。実乃莉はデータを見ながら、請求金額の確認できていない取引先の洗い出しを始めた。
「おはよ〜」
忙しいときほど時間が経つのは早い。遅出の深雪が出社してきて、そんなことを思う。
「おはようございます。龍さんですが、今日は午後から出社予定だそうです」
「そうなんだ。やっと落ち着いたのかしらね」
「だと……いいんですけど……」
あの手紙の文面が浮かび、実乃莉の表情に暗い影を落とす。先週のあのトラブルが繋がっているとは言い切れない。けれどそう思わざるを得ない自分がいた。
「実乃莉ちゃん……」
深雪が言いかけると外線がなり、実乃莉はそれを取る。会社名と自分の名を淀みなく口に出すと、相手の男性はいきなり切り出した。
『あんたか。鷹柳ってのは』
「さようでございます」
自分が何者なのかも言わない相手に、実乃莉は顔を強張らせながら答えた。
『どうなってるんだ! この請求書は! 前回の倍額になるなんて聞いてないぞ‼︎』
相手の口調とまだ出していないはずの請求書の話を持ち出され実乃莉は混乱していた。
「もうしわけございません。すぐに確認いたします。御社のお名前といつ付けの請求書か教えていただけますか?」
実乃莉はすぐさま聞き取った内容を確認する。いや、見なくてもその内容が違っていることはわかっていた。つい今しがたまでデータを見ていて、その会社の金額が前月と変わりないことは確認済みだったのだから。
けれど相手は、間違いなく先月分、つまり実乃莉が今から送る予定の請求書だと言い張っていた。
「ご迷惑をおかけし、大変もうしわけございません。手違いがあったものと思われます。至急正しいものお送りいたします」
こんなクレームは初めてで、実乃莉はどう謝罪するのが正しいのかもわからない。それでも誠心誠意謝ったことが伝わったのか、相手は深い溜め息を吐きながらも怒りを収めた。
『しっかりしてくれよ。それでなくとも最近あんたんところ、いい噂聞かないんだから』
「……えっ? それはどう言う……」
思いがけないことを聞かされ、実乃莉は慌てて尋ねる。けれど相手は自分の失言に気づいたのか『じゃ、請求書頼む』と言うなり電話を切ってしまった。
そして実乃莉は、受話器を持ったまま呆然としていた。