出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
 深雪は一通り、今まであったことの説明を始める。瞳子が実乃莉の前に現れたこと、駅での事件、そして今回のトラブルと噂、それに脅迫状のこと。
 それを奨生は、難しい表情で口元に手を当て聞き入っていた。

「そのトラブルって、どこの会社だったかわかる?」
「全部は私も把握してないな。小さいのは事務(こっち)には流れてこないし」

 奨生と深雪が話していると千佐都が立ち上がる。

「私、向こうで確認してきますよ」
「ありがとう。お願い」

 千佐都が社長室を出ていくと、深雪はペットボトルの水を口に運びながら隣を向いた。

「お兄ちゃんはどこまで話し聞いてるの?」
「ほとんど初耳。もちろんうちも関わってるエラーの件は知ってるけど。龍は自分のことあんま話さないし」
「それはお兄ちゃんが聞き流すから! 信用ないんじゃない?」

 呆れ顔で言う深雪に、奨生はムッとしながらアイスコーヒーを手にした。

「ちゃんと聞いてるし、信用してるからこそ会社を頼むって言ってきたんだろ?」
「龍が頼みごとなんて。そうそうある話じゃないわよね。だいたいは自分で解決しちゃうタイプだし」
「だから、余程何かあったんだろうなとは思ってたけど」

 そう返した奨生は、アイスコーヒーを一気に呷ったあと息を吐き出した。

「で、犯人の目星だけど。さっき聞いた龍の元カノだと思うか?」

 淡々と尋ねられ、実乃莉と深雪は顔を見合わせた。正直なところ、めぼしい相手は瞳子しか浮かばない。けれど、だんだんそれもあやふやになってきていた。

「そう思ってたんだけど……。なんかこう、しっくりこないのよね。だって、龍に復縁迫ったからって、はいそうですかって靡くとは思えないし」

 深雪の言う通りだった。
 瞳子は先に別れを匂わせておいて、そんなつもりは無かったと言ったらしい。が、そんな瞳子に嫌気がさし、龍はキッパリ別れを告げている。龍の性格からいって、そんな相手とまた付き合うなんて想像できなかった。

「まあ、確かにな。龍のプライドが許すとは思えない。けどさ。話し聞いて、単独犯とは思えないんだよな。もちろん実行犯は別にいるだろうけど」

 抑揚のない落ち着いた口調で奨生は言う。それに深雪は訝しげに顔を歪めた。

「他に……主犯がいるってこと?」
「絶対にとは言えないけど。龍を恨んでるのか、俺なのか。それとも……」

 表情の読めないクールな顔を実乃莉に向けると奨生は続けた。

「鷹柳さんなのかは……わからないけど」
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