出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
 先に食事を取ったあとリビングルームに向かう。壁に配置されているテレビの向かいにあるソファには孝匡が一人、明るいとは言えない表情で座っていた。
 服装は半袖の白いポロシャツに、下はネイビーのジャージ。そう言えば毎年この日は地域のスポーツ大会に来賓として呼ばれていたことを思い出した。

「おはようございます」
「あぁ、おはよう」

 短く挨拶を交わすと、実乃莉はソファの端に腰掛ける。
 テレビでは月曜日ということもあり、朝のワイドショーが流れていた。取り上げられているのは、昨日流れたニュースの続報だった。画面には逮捕された高木が、警察車両に乗せられていく姿が流れていた。それから、瞳子の顔写真と名前、役員をしている企業の本社ビルも。

 何の会話もないまましばらくテレビを見つめる。そのニュースが一区切り付きコマーシャルに切り替わると孝匡は実乃莉に顔を向けた。

「実乃莉。今日、何か予定は?」
「とくには何も……」

 あまり自分に予定を聞くことのない孝匡にそう尋ねられ少し戸惑う。そんな実乃莉をよそに、孝匡はほんのりと表情を緩めた。

「そうか。では十時に迎えが来る。先方がどうしてもお前に会いたいと申し入れてきてな。会ってやってくれないだろうか」

 そう言ってから孝匡はテーブルに伏せて置いていた封書を差し出した。そこに視線を落とすと、表には身上書と記されていて、実乃莉は衝撃を受けた。

「お見合い……ということですか?」

 今まで、ほとんどの話しを断ってくれていたはずなのになぜこのタイミングなのか。孝匡の真意が掴めないでいた。

「お前はもう大人だ。ちゃんと自分で考え、自分で答えを出せるくらいに成長した。だからこれからは、自分の意思で行動しなさい」

 叱られているのではない。孝匡の向ける眼差しは優しく、実乃莉を諭しているようだった。

「……はい。わかりました」

 実乃莉はおずおずとその封書を受け取りまた顔を上げる。孝匡は見守るような穏やかな表情のまま口を開いた。

「実乃莉。これからは、家のことなど何も気にしなくていい。この先、お前は自由に生きればいいんだ。私は、いや……みんな、大事な娘の幸せを願っているのだから」
「お父……さん……」

 知らなかった、いや、知ろうとしなかった。自分が本当は、大切にされていたことを。

「ありがとう……ございます……」

 次々と溢れる涙にそれだけ言うのが精一杯だった。そんな実乃莉の頭を孝匡はそっと撫でた。小さな子どもをあやすように。
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