出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
「実乃莉の性格、出てるよな……」

 ボソリと言う龍の言葉に実乃莉は顔を上げる。龍はおかずの一つ、里芋の胡麻和えを箸で持ち上げていた。

「それは……どういう……」

 何かしただろうかと不安になるが、龍の表情から、悪く言われているわけではなさそうだ。
 龍は実乃莉を見てフフッと口元を緩ませると言った。

「全部丁寧に作ってあるし、隅々まで行き届いてる。仕事でも同じだ。実乃莉は一生懸命だし、細かい気づかいをしてくれる。深雪も、他の社員たちもずいぶん助けられてる。もちろん俺もな」

 これ以上ないくらい褒められ、実乃莉の頰は一瞬にして熱を帯びる。とてつもなく嬉しいと思うのに、なんと返せばいいか出てこなかった。
 実乃莉は人に賞賛されることに慣れていない。むしろ、『謙虚に』と育てられていたからか、特に嬉しいとき、その感情をを大きく露わにすることが苦手だった。

「……? どうした?」

 暗い表情で俯いてしまった実乃莉に、龍は問いかける。

「あ、すみません。その……少し戸惑ってしまって。」
「どうして?」

 龍は持っていた弁当箱を膝に置くと実乃莉に真剣な眼差しを向けた。

「その……」

 そこで実乃莉は言い淀む。うまく言葉が紡げない。せっかくいい雰囲気だったのに泣きたくなっていた。

「無理しなくていいぞ」

 優しい低い声に実乃莉は顔を上げる。不安気な実乃莉に、龍は穏やかに笑いかけた。

「無理……?」
「あぁ。勝手な想像だけど、周りに言われてきたんだろ? 色々と」

(龍さんは……理解してくれてるの?)

 立場は違えど同じ政治家の家系。もしかしたら、誰よりも自分をわかってくれているのかも知れない。

「私、周りから……母や祖母からは、『何ごとにも控えめに、男性を立てなさい』って育てられて、自分の意見なんてなかなか言えないでいました」

 そこまで言うと実乃莉は自嘲するように力なく笑う。

「それに、こんなに褒められたことなんてなくて。本当にいいのかなって……。ひねくれてますよね」
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