出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
龍に弁当を作り始めて四日目の木曜日。
今日は買い物に寄ろうかと考えながら会社の外に出た実乃莉の後ろから声がした。
「実乃莉ちゃん! いま帰り?」
「糸井さん。お疲れ様です」
いつも定時に会社を出る実乃莉が糸井と一緒になったのは初めてだ。実乃莉の姿を見つけて走ってきたのか、糸井は息を切らせていた。
糸井はニコニコしながら実乃莉の隣に並ぶと歩調を合わせて歩き出した。
「今日はお早いんですね」
「たまにはね。そのうち地獄のデスマがやってくるし、今のうちにゆっくりしようと思って」
明るく笑う糸井に、実乃莉は「デスマ……?」と聞いたことのない言葉を口に出す。
「あぁ。デスマってのは……」
駅までの緩やかな坂を下りながら、糸井は笑って説明する。
それは、デスマーチと呼ばれる状況のことで、プロジェクトも佳境に入ると起こるらしい。開発しているソフトウェアには納期があって、何日も残業や徹夜をしてでも間に合わせなければいけないのだとか。
実乃莉が初めて糸井に会ったとき、まさにその真っ最中だったと糸井は笑いながら言った。
「大変……なんですね……」
「まぁね。でも龍さんはちゃんと残業付けてくれるし、代休もくれるから文句はないなぁ……。それより実乃莉ちゃん!」
前を向いて歩いていた糸井は、思い出したように声を上げ実乃莉に向く。
「来週月曜、大丈夫だよね? もし嫌なら……実乃莉ちゃん抜きのただの飲み会に切り替えるけど」
最後は不安そうに言う糸井に、実乃莉は首を振って答える。
「そんなことないです。思ってよりたくさんの人数で驚きましたけど、そんなにたくさんの方に誕生日を祝っていただけるなんて初めてで……」
そこで実乃莉は一呼吸おく。
もう目の前は駅で、そこに続く横断歩道の赤信号で止まると実乃莉は糸井を見上げた。
「嬉しいです。とても。当日を楽しみにしています」
実乃莉は素直にそう思えた。
龍と話したのはほんの数日前のこと。それから実乃莉は、意識して自分の感情を伝えるよう心掛けていた。
そんな実乃莉に、糸井は「よかった」と顔を綻ばせていた。
信号は青になり、二人が一歩進もうとしたときだった。
そばに停まっていた白い高級車の扉が突然開き、そこから見覚えのある人が降りてきたのは。
今日は買い物に寄ろうかと考えながら会社の外に出た実乃莉の後ろから声がした。
「実乃莉ちゃん! いま帰り?」
「糸井さん。お疲れ様です」
いつも定時に会社を出る実乃莉が糸井と一緒になったのは初めてだ。実乃莉の姿を見つけて走ってきたのか、糸井は息を切らせていた。
糸井はニコニコしながら実乃莉の隣に並ぶと歩調を合わせて歩き出した。
「今日はお早いんですね」
「たまにはね。そのうち地獄のデスマがやってくるし、今のうちにゆっくりしようと思って」
明るく笑う糸井に、実乃莉は「デスマ……?」と聞いたことのない言葉を口に出す。
「あぁ。デスマってのは……」
駅までの緩やかな坂を下りながら、糸井は笑って説明する。
それは、デスマーチと呼ばれる状況のことで、プロジェクトも佳境に入ると起こるらしい。開発しているソフトウェアには納期があって、何日も残業や徹夜をしてでも間に合わせなければいけないのだとか。
実乃莉が初めて糸井に会ったとき、まさにその真っ最中だったと糸井は笑いながら言った。
「大変……なんですね……」
「まぁね。でも龍さんはちゃんと残業付けてくれるし、代休もくれるから文句はないなぁ……。それより実乃莉ちゃん!」
前を向いて歩いていた糸井は、思い出したように声を上げ実乃莉に向く。
「来週月曜、大丈夫だよね? もし嫌なら……実乃莉ちゃん抜きのただの飲み会に切り替えるけど」
最後は不安そうに言う糸井に、実乃莉は首を振って答える。
「そんなことないです。思ってよりたくさんの人数で驚きましたけど、そんなにたくさんの方に誕生日を祝っていただけるなんて初めてで……」
そこで実乃莉は一呼吸おく。
もう目の前は駅で、そこに続く横断歩道の赤信号で止まると実乃莉は糸井を見上げた。
「嬉しいです。とても。当日を楽しみにしています」
実乃莉は素直にそう思えた。
龍と話したのはほんの数日前のこと。それから実乃莉は、意識して自分の感情を伝えるよう心掛けていた。
そんな実乃莉に、糸井は「よかった」と顔を綻ばせていた。
信号は青になり、二人が一歩進もうとしたときだった。
そばに停まっていた白い高級車の扉が突然開き、そこから見覚えのある人が降りてきたのは。