出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
運ばれた病院は、会社からはそう遠くなかったが、家からは反対方向だった。それでも龍は、一度来たことがあるぶん迷いなく運転していた。
三十分ほどで家の前に着き、細い一本道をゆっくり車が進んでいく。閉められている車庫の前には、見慣れぬ車が止まっていた。落ち着きのあるセダンの黒い車だ。
龍がその車の後ろにつけるよう車を停めると、その到着を待ち侘びていたように前に止まる車の助手席の扉が開くのが見えた。
いったい誰が? と車内から様子を伺っていると、出てきたのは深雪で、泣きそうな顔でこちらにやってきた。
「実乃莉はまだ動かなくていいからな」
龍はエンジンを切ると外へ出て行く。
「ちょっと! いったいどういうこと⁈」
窓ガラスの向こうから、くぐもった深雪の声が聞こえる。それは龍に向かって発せられていて、かなりの剣幕だった。
「だから、そうカッカすんなって」
龍が助手席のドアを開くと、呆れたような声ははっきりと聞こえてきた。そんな龍を押し除けるように、深雪はドアの内側に入ってきた。
「実乃莉ちゃん! 良かったぁ……。怪我したって聞いて心配で……」
「すみません、深雪さん。ご心配をおかけして……」
「何言ってるのよ。実乃莉ちゃんが謝ることじゃないでしょ」
深雪はホッとした様子でそう言う。
「とりあえず、荷造りの手伝いに来たの。龍だけじゃ色々困ることもあるだろうし。おせっかいだったかな?」
「そんなことないです! 深雪さんがいてくれて、心強いです」
もうとっくに、深雪は自分の憧れの存在になっていた。誰に物怖じすることもなく自分の意見が言えて、テキパキと仕事をこなす姿に。実乃莉は、そんな深雪を、大事な姉のように感じていた。
「深雪、続きは家の中でしろ。実乃莉、鍵はあるか?」
龍が割り込んでくると二人に声を掛ける。
「わかったわよ」
しかたなく深雪がドアから離れると、実乃莉は自分のバッグから出した鍵を龍に差し出した。
「カードキーは門扉に付いているセキュリティ解除用です。玄関の鍵はこっちです」
説明しながら実乃莉が鍵を渡すと、龍は振り返りそのまま後ろへ渡す。
「だって。聞こえたよな、遠坂」
深雪と龍の影に隠れて実乃莉には見えていなかったが、そこにはもう一人、名前しか知らないその人が立っていた。
三十分ほどで家の前に着き、細い一本道をゆっくり車が進んでいく。閉められている車庫の前には、見慣れぬ車が止まっていた。落ち着きのあるセダンの黒い車だ。
龍がその車の後ろにつけるよう車を停めると、その到着を待ち侘びていたように前に止まる車の助手席の扉が開くのが見えた。
いったい誰が? と車内から様子を伺っていると、出てきたのは深雪で、泣きそうな顔でこちらにやってきた。
「実乃莉はまだ動かなくていいからな」
龍はエンジンを切ると外へ出て行く。
「ちょっと! いったいどういうこと⁈」
窓ガラスの向こうから、くぐもった深雪の声が聞こえる。それは龍に向かって発せられていて、かなりの剣幕だった。
「だから、そうカッカすんなって」
龍が助手席のドアを開くと、呆れたような声ははっきりと聞こえてきた。そんな龍を押し除けるように、深雪はドアの内側に入ってきた。
「実乃莉ちゃん! 良かったぁ……。怪我したって聞いて心配で……」
「すみません、深雪さん。ご心配をおかけして……」
「何言ってるのよ。実乃莉ちゃんが謝ることじゃないでしょ」
深雪はホッとした様子でそう言う。
「とりあえず、荷造りの手伝いに来たの。龍だけじゃ色々困ることもあるだろうし。おせっかいだったかな?」
「そんなことないです! 深雪さんがいてくれて、心強いです」
もうとっくに、深雪は自分の憧れの存在になっていた。誰に物怖じすることもなく自分の意見が言えて、テキパキと仕事をこなす姿に。実乃莉は、そんな深雪を、大事な姉のように感じていた。
「深雪、続きは家の中でしろ。実乃莉、鍵はあるか?」
龍が割り込んでくると二人に声を掛ける。
「わかったわよ」
しかたなく深雪がドアから離れると、実乃莉は自分のバッグから出した鍵を龍に差し出した。
「カードキーは門扉に付いているセキュリティ解除用です。玄関の鍵はこっちです」
説明しながら実乃莉が鍵を渡すと、龍は振り返りそのまま後ろへ渡す。
「だって。聞こえたよな、遠坂」
深雪と龍の影に隠れて実乃莉には見えていなかったが、そこにはもう一人、名前しか知らないその人が立っていた。