出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
 九月の和らいだ日差しが部屋に降り注ぐ。窓の向こうには爽やかな青空が広がっていた。龍の家で迎える二日目の今日は日曜日だった。
 いつもの習慣で七時には目を覚ました実乃莉は、ベッドに横になったままぼんやりと窓の向こうを眺めた。

(いいお天気……)

 本当なら今日は、龍と二人でどこかへ出かけるはずだった。残念だがまだ立っているのがやっとの状態で、歩き回れるはずもない。一緒に出かけることはできないが、一緒にはいられる。そう思うだけで、実乃莉の心は軽くなった。

 ノソノソと起き上がると実乃莉はゆっくり立ち上がってみる。昨日はまだ強かった足の痛みは、今はかなり治っていた。

(これならもう、自分の足で歩けそう)

 実乃莉は金曜日の夜からの自分の姿を思い出し、一人顔を赤らめた。
 なにしろ龍は、実乃莉を少しも歩かせず、当たり前のように抱き抱えて移動していた。大丈夫だと言っても前科があるからか信用されず、とにかく龍はせっせと足代わりを勤めた。
 実乃莉はその都度ドキドキしながらしがみついているのに、龍はだんだん慣れてきたのか照れることなく、むしろ嬉しそうにしていた。

(龍さん、実は面白がってる?)

 ストンとしたニットのロングワンピースに着替えながらふと思う。
 こんなとき大人の余裕を感じてしまう。実際に、十以上年が離れているわけで、どうあがいても太刀打ちできない。けれど時々、少年のような表情を見せる龍に『可愛いかも……』と思ってしまうことはあった。

 着替え終わったところで、トントンと扉から音が聞こえた。

「おはよう、実乃莉」

 明るく入ってくると、龍は真っ直ぐ実乃莉の元へ向かう。

「おはようございます」
「立ってて大丈夫か? 無理すんなよ」
「大丈夫ですって。立ってるだけなら痛みもそんなにありませんから。龍さんは本当に心配性ですね」

 あまりの過保護ぶりに、実乃莉は思わずクスクス笑いながら返す。決まりが悪いのか龍は少し顔を顰めた。

「とにかく心配になるんだから仕方ないだろ? ってことで、今日も歩くのはお預けだ」

 龍は実乃莉に向かって体を傾ける。

「……甘やかせすぎじゃないですか?」

 そんなことを言いながらも、実乃莉は素直に龍の肩に腕を回した。

「いいんだよ。甘やかしたいんだから」

 龍は笑みを浮かべて、実乃莉の体をゆっくり持ち上げた。
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