出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
「可愛いのは認めるからさ。とりあえず入れてくんない? 実乃莉、足怪我してて、早く座らせてやりたいし」

 しれっとした顔の龍に言われ、由香は実乃莉の足元を見た。

「わっ、ごめん! とりあえず入って入って」

 由香は慌てて玄関に戻ると、開けた扉を押さえている。

「実乃莉。俺の腕、使って」
「ありがとうございます」

 もう龍の腕に手を添えるのに緊張もしなくなった。重心を右にかけながら、龍の腕に掴まりつつ家に入った。

(普通のお家じゃない……?)

 玄関を入ると、すぐに広いスペースが広がっていた。美容室のようで、少し違う気もする。大きな鏡の前にチェアは一つだけ。周りにはところ狭しとボトルが並べられ、すみにはマニュキアらしきカラフルな小瓶が並ぶカウンターがあった。

「座って座って」

 由香は壁際に置かれた、二人並ぶのがやっとの小ぶりなソファに促した。
 実乃莉がそこに座ると、隣に龍は並ぶ。それを立ったまま眺めている由香はずっと笑顔だ。

「あの、龍さん。ここは……?」

 耳打ちするように尋ねると、龍は柔らかく笑った。

「えーと。トータルビューティーサロン、だっけ?」

 答えを確かめるように由香を見ると、由香は「正解!」と得意げに声を上げた。それから真っ直ぐ実乃莉向くと、ふわりと優しく笑った。

「初めまして。この店のオーナー、皆上由香です。よろしくね」
「皆上……さん?」

 親戚だろうかと実乃莉が考えていると、隣から龍がその会話に入った。

「俺の姉さんな。義理の、だけど」
「お姉さん……。もしかして、お兄さんの?」
「そう。兄貴の嫁さん。ちなみに由香さん、兄貴より年上で、もう三十……」

 そこまで龍が言うと、たしなめるように「ちょっと龍ちゃん! 女性の年齢ばらすなんて野暮なことしないの!」と声が飛んできた。

「はいはい」

 首をすくめた龍は、半笑いで軽く返している。

 それにしても、どうしてここに連れて来られたのだろうか。義理だとしても身内と呼べる人に会い、実乃莉は戸惑いを隠せないでいた。
 そんな実乃莉に、由香は満面の笑みを浮かべた。

「じゃあ、実乃莉ちゃん。さっそくだけど、お着替えからね!」

 由香は楽しげに両手を上げて軽く叩く。実乃莉は余計困惑し「着替え?」と口にした。

「そう。もぉね、龍ちゃんが可愛いお洋服用意してるのよぉ! 絶対似合う!」

 その台詞に実乃莉は驚き隣を向くと、龍はなんとなく、また照れているように見えた。
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