愛され庭師は悪役令嬢に巻き込まれ……いえ、今世こそ幸せにしてあげたいです!
「リコリスは花泥棒なんてしていないわ。あなたの勘違いよ」

 トゥルシーは精一杯平静を装っているようだったが、ちっともできていなかった。
 声は震えているし、視線も泳いでいる。
 これ以上刺激しては、大事そうに胸に抱くハサミで何をしでかすかわからず、ディルは諦めるように息を吐いた。

「わかった。そういうことにしよう」

 とりあえず今夜は、という言葉は呑み込んで、ディルはトゥルシーを逃す。

「まだ、彼女を止める手立てはあるはずだ」

 ディルの祈りにも似た言葉は、誰に聞かれることもなく夜風にかき消された。
< 167 / 322 >

この作品をシェア

pagetop