聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
「俺の、彼女になってもらえませんか!?俺のこと、好きになってもらえるように頑張るから…!」
そう言って、福井は菜々の目の前に手を差し出した。
菜々は、差し出された手を見つめたまま「ごめんなさい」と言い、そのまま言葉を続けた。
「好きな人がいるの。だから彼女にはなれません。」
そう言うと、福井は下げていた頭を少し持ち上げて、小さな声で「それって相良?」と尋ねた。
菜々は小さく頭を振った。
「相良君じゃないよ。他の人。」
「サッカー部の中にいるの?」
福井が質問を重ねる。
また菜々は小さく頭を振った。
「そっか…。」
福井は小さく呟くと、笑顔を取り繕った。
「突然、悪かったな!これからもマネージャーと部員として、よろしくな!…じゃあ俺、ちょっと、外走ってくる。」
そう言うと、福井は菜々の横を通り過ぎ、建屋を出ていった。
――今回は、ちゃんと流されずに断れてよかった。
中学の時に、押しに負けて仕方なく付き合ったことをまた思い出していた。
好きになる可能性が低いのに付き合うのは、相手のためにも、自分のためにも良くないと学んだ。
相手に流されず、しっかりと意思表示をしたことで、お互い前に進むことができる。
福井が出ていった出入口をしばらく見つめていた菜々は、部室のドアを開けて、中に戻った。