聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!


会える。


でも春からは離れ離れ。


複雑な気分だった。


告白したところで、きっとフラれるだろう。


会えるのは、これで最後になるかもしれない。


入念にヘアメイクを整える。


涙の跡も、メイクで隠した。


白いニットに、ネイビーの花柄ロングスカートを合わせているが、これで、矢嶋と会う最後の日を、少しでも華やかに演出できるだろうか。


――とにかく後悔しないようにするんだ。私の気持ち、全部伝えよう。


準備していた、矢嶋のためのプレゼント。


受け取ってもらえるか分からないが、菜々は小さなその袋を抱えて家を出た。


駅前の広場に着くと、見知った背中が見えた。


「矢嶋先輩?」


そう声をかけて振り向いたのは、間違いなく矢嶋だった。


「ごめんなさい、私の方が家近いのにお待たせして…。」


「いや、大丈夫。たまたまいいタイミングで電車が来て、思ったより早く着いただけだから。」


そう言うと、矢嶋は菜々を見つめた。


「…今日も綺麗だね。可愛いし、綺麗。」


「…ありがとうございます。」


花火大会の時に褒めてくれたことを思い出す。


――こんな嬉しい言葉を聞けるのも、今日で最後かもしれないな。

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