麻衣ロード、そのイカレた軌跡⑦/危険色の進路決す!
過激な夏の扉/その17
剣崎



この日。ヒールズには珍しく3組も客が入っていた

なので、俺と倉橋は2階の部屋で打ち合わせを行うことにした

「しかし、今日は蒸すな。お前も脱いだらどうだ」

「いえ。仕事中はこの格好でないと落ち着かんので…」

エアコンの効きが今一で、俺は既に上着を脱いでネクタイも外しているが、毎度のことながら、倉橋は真夏でも正装を欠かさない主義だ

ふふ…、撲殺人の額にはもう汗が滴っているわ

俺の前でなら無理せんでもいいのにな(苦笑)


...


二人はビールを口に運びながら、雑談モードで話を進めていた

今日は新たに相馬会長の”血縁となった”、横田競子と、それと連動する麻衣についての今後の対応が申し合わせの主となる

俺は会長の考えも含め、今後の麻衣とケイコをどう扱うかを詳しく告げた


...


「…分かりました。その二人目の子は主に能勢ってことで、段取りしときましょう」

「頼む。当面は俺も、二人のバランスには注意を注ぐしな。何しろ、ケイコという子はその辺の不良娘なんかじゃない。親や家族だってしっかりしてると思うし、いろんな意味で配慮が必要だ」

「そうですね…。どうも俺は麻衣ちゃんに慣れちゃってるから、会長の判断は適切ですわ」

「ふふ…、倉橋も麻衣とはすっかり気が合ってるからな。ヤツもえらく懐いてるし…」

「はは…、正直、あの子は気に入ってます。だから、どうしても二人目の子よりは、麻衣ちゃんの方に肩入れしちゃうでしょうしね」

撲殺人め、相変わらずバカ正直だわ

だが、実際にケイコと間近かで接したらこの撲殺人、どんな反応を示すだろうか…

これはこれで興味がある


...


「ああ…。だが、お前はそれでいい。麻衣の野郎、今後はとびっきりのケンカ相手を得てよう、目を離すとまた何をしでかすかわからんからな(苦笑)」

倉橋も思わず笑いを漏らしたわ

「…アイツには、倉橋みたいな人間が監視も兼ねて張り付いてないとな。あまり大きな声では言えねえが、組全体にも関わり兼ねんデリケートな面も含んでるんだ。お前も忙しいとこ悪いが、これは単なるハナタレ娘の子守りじゃない。俺からも能勢にはよく言っとくが、会長の肝いりってことだからよう…」

「了解してますよ。俺にだって、若が亡くなった後どんな動きが出てるかくらいは概ね承知してるつもりです」

よし、倉橋は関東がウチに揺さぶりをかけてくることを察知しているな

しかも、その突破口が性懲りもなく、星流会を介したガキ連中だってことも…

そして漠然とだろうが、この撲殺人も更にイメージしているはずだ

この二人の女子高生が、いずれ関東直系の東龍会辺りがクッションとして放ってくるであろうガキどもとも絡んでくる可能性があることも…

...


相馬会長が遠縁の娘に仕立ててまで抱えた麻衣とケイコ…

相和会としては、どのような役どころが考えられるか…

いずれにしても相馬豹一という人は、そこまでを見据えた上で、二人を競わせていくつもりだ

そこへ向かう道の入り口に俺たちは立っているんだろう

その扉はこの夏、大きく開いたんだ





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