絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「っ……」
浅い呼吸を繰り返しながら、フランチェスカは跳ねるように起き上がると、書き物机の上に置いたままだったポポルファミリー人形をつかみ、その手を振り上げるが――。
結局、小さな人形を床に叩きつける気になれず、そのまま机の上にそっと戻した。
愛らしい人形に罪はないし、そんなことをしても自分を貶めるだけだ。
フランチェスカは震えながら、つま先を見おろした。
正妻には愛人を領地の外に追い出す権利もあるが、そんなことをしてもマティアスに恨まれるだけである。
(マティアス様を困らせたくない……)
この期に及んで、フランチェスカはまだマティアスに嫌われたくなかった。
だがこうなった以上、自分の気持ちはマティアスにはぶつけられない。
彼に望まぬ結婚を強いたのは、自分なのだから。
その日の夜、寝る前に身支度を整えているとドアがノックされた。アンナが応対に出ると、なんと仕事帰りのマティアスだった。
「旦那様。どうしたんですか?」
アンナの声にフランチェスカも驚いたように椅子から立ち上がった。
彼に愛する人がいると知ったのは数時間前だ。なんとか平静を保ちつつドアへと向かう。
「フランチェスカ……その……」
ドア付近に立ったマティアスは少し困ったように首の後ろをがしがしとかき回した後、どこか決意したようにフランチェスカの手を取り、その場にひざまずいて手の甲に唇を寄せた。
「昨日は約束を守れなくてすみませんでした」
結局、マティアスは昨日から帰ってこなかったのだが、どうやら昨晩のことをわざわざ謝罪しに来てくれたらしい。
「い……いえ。早く帰れたらということでしたから、気にしないでください」
フランチェスカは必死に理性をかき集めて、マティアスを見おろす。
声は震えていないだろうか。
彼にこうやってかしずかれると、心の奥がざわめいてしまう。
彼に片思いをしている自分には、この程度の触れ合いすら胸が弾むのだ。
まさかわざわざ謝りに来るとは思っていなかったので驚いたが、もしかしたら『後ろめたい』のかもしれない。
(本当は私が邪魔をしているだけなのだけれど……)
だがマティアスの恋人については『知っている』とは言わない方がいいだろう。マティアスに余計な気を遣わせてしまう。
フランチェスカはそんなことを思いながら、首を振った。
浅い呼吸を繰り返しながら、フランチェスカは跳ねるように起き上がると、書き物机の上に置いたままだったポポルファミリー人形をつかみ、その手を振り上げるが――。
結局、小さな人形を床に叩きつける気になれず、そのまま机の上にそっと戻した。
愛らしい人形に罪はないし、そんなことをしても自分を貶めるだけだ。
フランチェスカは震えながら、つま先を見おろした。
正妻には愛人を領地の外に追い出す権利もあるが、そんなことをしてもマティアスに恨まれるだけである。
(マティアス様を困らせたくない……)
この期に及んで、フランチェスカはまだマティアスに嫌われたくなかった。
だがこうなった以上、自分の気持ちはマティアスにはぶつけられない。
彼に望まぬ結婚を強いたのは、自分なのだから。
その日の夜、寝る前に身支度を整えているとドアがノックされた。アンナが応対に出ると、なんと仕事帰りのマティアスだった。
「旦那様。どうしたんですか?」
アンナの声にフランチェスカも驚いたように椅子から立ち上がった。
彼に愛する人がいると知ったのは数時間前だ。なんとか平静を保ちつつドアへと向かう。
「フランチェスカ……その……」
ドア付近に立ったマティアスは少し困ったように首の後ろをがしがしとかき回した後、どこか決意したようにフランチェスカの手を取り、その場にひざまずいて手の甲に唇を寄せた。
「昨日は約束を守れなくてすみませんでした」
結局、マティアスは昨日から帰ってこなかったのだが、どうやら昨晩のことをわざわざ謝罪しに来てくれたらしい。
「い……いえ。早く帰れたらということでしたから、気にしないでください」
フランチェスカは必死に理性をかき集めて、マティアスを見おろす。
声は震えていないだろうか。
彼にこうやってかしずかれると、心の奥がざわめいてしまう。
彼に片思いをしている自分には、この程度の触れ合いすら胸が弾むのだ。
まさかわざわざ謝りに来るとは思っていなかったので驚いたが、もしかしたら『後ろめたい』のかもしれない。
(本当は私が邪魔をしているだけなのだけれど……)
だがマティアスの恋人については『知っている』とは言わない方がいいだろう。マティアスに余計な気を遣わせてしまう。
フランチェスカはそんなことを思いながら、首を振った。