絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
(どうしてその方と結婚しないのかも……平民だとなれば、当然だわ)
貴族の男は平民を妻には出来ない。だが妻となるべき人をいったん貴族の養子にするという抜け道ががある。これは商家出身の妻をもつ貴族は、みな当たり前にやっていいることだった。
だがマティアスは元平民で王都の貴族たちからも距離をとっている。愛した女性を貴族の養子にすることが難しかったのではないだろうか。
そんな折、自分が押しかけるようにシドニア領にやってきた。戸惑って当然だ。
そしてふたりの距離が近づくたび、マティアスがどこか困ったように、フランチェスカをすんでのところで突き放してしまうのも、平民の妻子を裏切れないと思うからではないか。
そう思うと、なにもかもがきれいに繋がってくる。
「あ……」
フランチェスカは両手で口元を覆い、悲鳴をのみ込んだ。
始めてシドニア領に向かう馬車の中で、
『マティアス様に愛人がいらっしゃったとしても、領主の妻として受け入れるわ。決していらぬ悋気ななんて起こさないことを神に誓います』
と断言したフランチェスカに、
『そんなこと言って、お嬢様が恋をしたらどうするんですか?』
アンナが呆れたように苦笑したことを、昨日のことのように思い出す。
フランチェスカの大きな青い瞳から、ポロポロと涙がこぼれる。
頬を伝う熱い涙の感触が、なぜか夢の中のようで、現実として受け入れられそうになかった。
「……私、バカね」
誓います――なんて、軽々しく口にした己の浅はかさが、刃のようにグサグサと心の柔らかい場所に刺さる。
「本当に……ばか……」
恋をするはずなんかないと思っていたのに、マティアスに出会って恋をした。
どんどん好きになって、振り向いてもらいたくて、必死になっていた。
頑張ればいつか報われる日が来ると思っていた。
だがそもそもマティアスほどの男がひとりなわけがないのだ。
『荒野のケダモノ』と不本意に貶められた彼の心を癒し、今でも支えている存在がいる。
あの人に愛されて、子供まで産んだ人がいる。
そのことを想像すると、胸が切り裂かれて血が吹き出るような思いがした。
貴族の男は平民を妻には出来ない。だが妻となるべき人をいったん貴族の養子にするという抜け道ががある。これは商家出身の妻をもつ貴族は、みな当たり前にやっていいることだった。
だがマティアスは元平民で王都の貴族たちからも距離をとっている。愛した女性を貴族の養子にすることが難しかったのではないだろうか。
そんな折、自分が押しかけるようにシドニア領にやってきた。戸惑って当然だ。
そしてふたりの距離が近づくたび、マティアスがどこか困ったように、フランチェスカをすんでのところで突き放してしまうのも、平民の妻子を裏切れないと思うからではないか。
そう思うと、なにもかもがきれいに繋がってくる。
「あ……」
フランチェスカは両手で口元を覆い、悲鳴をのみ込んだ。
始めてシドニア領に向かう馬車の中で、
『マティアス様に愛人がいらっしゃったとしても、領主の妻として受け入れるわ。決していらぬ悋気ななんて起こさないことを神に誓います』
と断言したフランチェスカに、
『そんなこと言って、お嬢様が恋をしたらどうするんですか?』
アンナが呆れたように苦笑したことを、昨日のことのように思い出す。
フランチェスカの大きな青い瞳から、ポロポロと涙がこぼれる。
頬を伝う熱い涙の感触が、なぜか夢の中のようで、現実として受け入れられそうになかった。
「……私、バカね」
誓います――なんて、軽々しく口にした己の浅はかさが、刃のようにグサグサと心の柔らかい場所に刺さる。
「本当に……ばか……」
恋をするはずなんかないと思っていたのに、マティアスに出会って恋をした。
どんどん好きになって、振り向いてもらいたくて、必死になっていた。
頑張ればいつか報われる日が来ると思っていた。
だがそもそもマティアスほどの男がひとりなわけがないのだ。
『荒野のケダモノ』と不本意に貶められた彼の心を癒し、今でも支えている存在がいる。
あの人に愛されて、子供まで産んだ人がいる。
そのことを想像すると、胸が切り裂かれて血が吹き出るような思いがした。