絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 とはいえ、黙っていると、マティアスの顔が浮かんでじんわりと涙が浮かんでしまうくらい彼が恋しいが、やはりシドニアで過ごした日々に後悔はなかった。
 アンナもそれを感じたのだろう。下手に慰めることもせず、励ますようにフランチェスカの肩を抱いて顔を覗き込んだ。

「そうですか……明日から前夜祭ですし、忙しくなりますから、今日は早く寝ましょう」
「そうね、少し早いけれど休むわ」

 マティアスにお休みの挨拶をしたかったが、明日の準備のためにまだ公舎に残っている。
 フランチェスカはベッドに入り目を閉じる。
 それからしばらくして、寝入りかけた次の瞬間――。
 窓の外からら、ドォン! と花火が打ちあがるような爆発音がした。

「っ!?」

 聞いたことがない音に、フランチェスカは跳ね起きる。咄嗟に寝巻の上にガウンを羽織って窓に駆け寄った。

(もしかして砲撃っ!?)

 咄嗟にそう思ったのは、八年前のことがあったからだが、シドニア領の向こうは険しい山間部だ。他国がいきなり侵略してこれるような場所でもなく、そもそもアルテリア王国の現状からして戦争など考えにくい。
 いったい何が起こったのかと窓の外に目を凝らしても、なにも見えない。

 状況がわからずハラハラしていると、
「お嬢様!」
 同じく寝巻にガウンを羽織ったアンナが、慌てた様子で飛び込んできた。

「アンナ、なにがあったの!?」
「それがあたしもよくわからなくて……」
「――とりあえず部屋を出ましょう」

 アンナの顔を見たら少し気分が落ち着いてきた。
 身支度を整えて階下に降りると、何人かの使用人が輪になって話している。

「なにがあったの!?」
「奥様……!」

 声をかけると、使用人たちがオロオロした様子でフランチェスカのもとに集まってきた。

「まだ未確認情報ですが、こ、公舎が燃えていると……」

 公舎と聞いて、全身から血の気が引いた。

「ダニエルは!?」
「一報を聞いてすぐに公舎へと向かわれました」

 ダニエルが公舎に向かったということは、マティアスはまだ帰宅していないということだ。
 一瞬で背筋が凍り付き、頭の中が真っ白になった。ショックで言葉が出てこない。全身から血の気が引いているのが分かる。
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