絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる

 かつてアルテリア王女から叙勲の名誉を与えられながら、儀式に泥だらけで出席し、大遅刻してきた男。

『礼儀知らずの野良犬』とさげすまれた男が、なぜか帝国の姫君と一緒にいる。
 しかもその胸に帝国の勲章を掲げて――。

 なにかの間違いではという空気が流れる中、フランチェスカは茫然と、白衣の騎士を見つめた。

「え……?」

 これはいったいどういうことだ。会いたいと思っていたから、都合のいい夢でも見ているのだろうか。
 いや、そもそもなぜ『帝国の騎士』になっているのだ。訳がわからない。

 言葉を失って茫然と立ち尽くすフランチェスカだが、白騎士は顔を覆っている仮面を片手でつかんでゆっくりと外す。
 その途端、後ろになでつけていた赤毛がはらりと額に落ちる。仮面の下から現れたのは、確かにフランチェスカが愛する夏の緑のような瞳で――。

「フランチェスカ。迎えに来た」

 どこか少し照れくさそうに彼は笑った後、フランチェスカに向かって手を伸ばしたのだった。


< 168 / 182 >

この作品をシェア

pagetop