絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
かつてアルテリア王女から叙勲の名誉を与えられながら、儀式に泥だらけで出席し、大遅刻してきた男。
『礼儀知らずの野良犬』とさげすまれた男が、なぜか帝国の姫君と一緒にいる。
しかもその胸に帝国の勲章を掲げて――。
なにかの間違いではという空気が流れる中、フランチェスカは茫然と、白衣の騎士を見つめた。
「え……?」
これはいったいどういうことだ。会いたいと思っていたから、都合のいい夢でも見ているのだろうか。
いや、そもそもなぜ『帝国の騎士』になっているのだ。訳がわからない。
言葉を失って茫然と立ち尽くすフランチェスカだが、白騎士は顔を覆っている仮面を片手でつかんでゆっくりと外す。
その途端、後ろになでつけていた赤毛がはらりと額に落ちる。仮面の下から現れたのは、確かにフランチェスカが愛する夏の緑のような瞳で――。
「フランチェスカ。迎えに来た」
どこか少し照れくさそうに彼は笑った後、フランチェスカに向かって手を伸ばしたのだった。